ビザンツ帝国の日食の記録から地球自転速度の変化を読み取る―地球内部構造や極地の氷の増減など長期的な環境変動の解明にも貢献:筑波大学ほか
(2022年9月14日発表)
筑波大学図書館情報メディア系の村田 光司助教と名古屋大学高等研究院の早川 尚志(はやかわ ひさし)特任助教らの研究グループは9月14日、ビザンツ帝国(東ローマ帝国)時代の皆既日食の記録を元に、当時の地球の自転速度をつかむことに成功したと発表した。自転速度の減速は不規則で、時代ごとに正確に把握できれば地球の内部構造の変化や極地の氷の増減など環境変動の解明につながるとみている。
地球の自転速度は少しずつ遅くなっている。過去の自転速度は古い時代の天文現象などから知ることができる。中でも皆既日食は各地で特別よく観察、記録されてきた。
皆既日食は、地球の自転速度に応じて見える場所が変化することから、記録を元に太陽と地球の連関や太陽活動の変動、地球の自転速度を復元することができる。ところが古い記録ほど観測地の偏りや信頼性の低下が生じ、過去に遡るにつれ不安定性が増えた。
西暦4世紀から7世紀にかけて、東地中海のビザンツ帝国で皆既日食が記録されてきたことは知られていたが、幾重もの引用や翻訳を経て伝えられたため、信頼性に疑問が持たれていた。
研究グループはビザンツ帝国の全ての天文関連記録を調べあげ、その内容を歴史学的、文献学的に検証した。ギリシャ語や古代エチオピア語(ゲエズ語)などの多数の資料から、一定の信頼性がある皆既日食の記録5件を選び出し、観測記録を詳細に分析した。
その結果、自転速度の減速は4世紀から5世紀初めにかけてごく緩やかで、5世紀中頃から7世紀にかけて比較的急なペースに変わった可能性が得られた。これでほとんど分かってなかった当時の地球自転速度の精度を向上させることに成功した。
地球自転速度の変化幅は、通常の時刻の国際単位である「地球時」から、地球の自転を基準にした「世界時」を引いた値として求められる。
これまで一定のペースで「単調に減少」してきたとみられる地球自転速度について、従来の説を見直すきっかけにもなりそうだ。研究チームは引き続き、ビザンツ帝国や周辺地域の天文記録の探索、分析にも手を広げ、他の時代についても研究を深めている。
この成果はまた、同時期に他の地域で観測された日食などとの関連性も明らかにできた。奈良時代に成立した歴史書「日本書紀」や中国大陸の歴史書「隋書(ずいしょ)」に登場する皆既日食などは、これまで信頼性が疑問視されていたが、今回の検討した601年のアンティオキアの皆既日食ともよく符合していた。
過去の地球自転速度の変動が正確に分かるようになると、海面変動や地球内部のマントルと外殻の相互作用など地球環境の長期変動の理解が深まるとみている。