瞳孔(どうこう)の拡大・縮小は運動中の脳の覚醒状態の指標に―運動負荷の増加に伴い、瞳孔非線形的に拡大:筑波大学
(2022年9月28日発表)
筑波大学体育系の研究グループは9月28日、運動の負荷と瞳孔の拡大・縮小の関係を調べたところ、運動負荷の線形的な増加に対して、瞳孔(どうこう)の応答は非線形な特徴的パターンを示すことが明らかになったと発表した。運動負荷による瞳孔の応答を詳細に観察すれば、運動中の脳の覚醒状態を推定できる可能性があるという。
瞳孔は「心の窓」ともいわれるように、脳の覚醒や注意、精神活動を反映することが古くから知られている。瞳孔の拡大・縮小の変化は交感神経と副交感神経の両方から神経支配を受けている。その源は、脳全体にノルアドレナリンを放出し、覚醒や注意をもたらす青斑核と呼ばれる部位(神経核)で、最近、瞳孔の拡大・縮小は青斑核の活動を含む脳の覚醒状態の変化を秒単位で反映するとして注目されている。
一方で運動も瞳孔を拡大させるとされているが、運動強度に対する瞳孔応答の詳細は不明だった。そこで研究グループは、安静状態から疲労困憊に至るまでの運動中の瞳孔の変化を追跡し、脳の覚醒状態を推定した。
研究では、健常な男子学生26人に、明るさが安定した部屋で自転車ペダリング運動を行ってもらい、負荷を漸増させながら呼気ガスや心拍などの生理応答を計測、瞳孔径をモニターした。また、「イキイキした」といった覚醒状態に関わる気分を聴取・計測した。
その結果、非常に軽い運動強度において、瞳孔は安静状態にある時よりも顕著に拡大した。負荷が増えるに従って瞳孔の拡大変化は緩やかになり、中強度を超えた付近から疲労困憊(こんぱい)に至るまで、再び急激に瞳孔は拡大した。
この変化パターンは、心拍数や血中乳酸濃度など従来の運動生理学的指標とは異なっている。瞳孔の変化が、脳の覚醒をもたらす神経活動を反映することを踏まえると、運動負荷の増加に対応して脳の覚醒状態がどのように変化しているのかを表している可能性があるという。
また、非常に軽い運動で瞳孔の拡大が確認できたことは、ヨガやウォーキングなどの軽運動でも脳の覚醒に関わる神経が活性化する可能性が示唆されたという。
心拍数など簡単に計れる生理学的指標がスポーツ現場などで広く利用されているが、瞳孔もまた、運動中の脳の覚醒状態の指標として応用可能となることが期待されるとしている。