単細胞から多細胞生物へ―進化のナゾ解明へ新種細菌:国立高等専門学校機構/筑波大学
(2022年10月11日発表)
(独)国立高等専門学校機構と筑波大学は10月11日、単細胞生物が複雑な多細胞生物へと進化したナゾ解明の手がかりとなる新種細菌を日本の鍾乳洞で発見したと発表した。細菌は洞窟壁面の断続的な水の流れにさらされて増殖期に液晶のように自己組織化し、その内部で小型の細胞が増殖する様子が確認された。水の流れが多細胞化を促した可能性もあるとして、従来の「環境足場」仮説を支持する世界初のモデルになるとみている。
高専機構の水野 康平教授、筑波大学の森川 一也教授ら日本の5機関からなる共同研究チームは鍾乳洞の地下河川近くの壁面で新種細菌HS-3株を発見、その増殖特性を詳しく調べた。
その結果、増殖期は明確に2つに分かれ、第一増殖期には洞窟壁面などの固体表面で液晶のように自己組織化して糸状細胞集団を形成することが分かった。さらにその後、流水中でその細胞集団の内部に分散可能な球菌細胞を増殖させる第二増殖期に入ることを確認した。
生命進化の過程で単細胞生物がどのように多細胞化したかについては、これまで①単細胞生物が互いに凝縮したり接着したりする性質を転用する、②こうしてできた準多細胞性の集団がダーウィン的自然選択を経るための環境条件が必要、という「環境足場」仮説が知られている。
研究チームは、今回発見した新種細菌がこの仮説を具体的に体現しているモデル細菌になるとみており、「多細胞生物の出現に関する理解に極めて重要な意味を持つ」と話している。既に新種細菌のゲノム解読も終えており、今後は多細胞化に関与する遺伝子を決めていくことが重要な課題だと話している。