新型コロナ感染期による豪華客船の乗員・乗客の精神症状を分析―約7割が1回のカウンセリングによって直ちに精神症状が改善:筑波大学ほか
(2022年10月11日発表)
筑波大学医学医療系と広島大学大学院などの研究チームは10月11日、新型コロナウイルス感染下で隔離中の豪華客船「ダイヤモンド・プリンセス号」の乗客、乗員に対して災害派遣精神医療チーム(DPAT)が実施した精神的支援活動の分析結果を発表した。女性の乗客と乗組員が最も多くメンタルヘルスの支援を必要とし、DPATによる適切な症状の聞き取りと助言によって多くが改善した。船などの特殊環境では、身体的な健康支援だけではなくメンタルヘルスの支援も不可欠としている。
ダイヤモンド・プリンセス号の乗客、乗務員3,711人は2020年2月5日から23日まで横浜港で検疫を受け、船内に14日間隔離された。その間、DPATが乗船し、精神面での健康状態(メンタルヘルス)の支援活動を実施した。
これまで検疫時のメンタルヘルスが十分に検証された事例はなく、支援のあり方も確立されていなかった。研究チームは、DPATを含む災害医療チームが記録した電子診療日報データベース(J-SPEED)の333例(身体版206例、精神保健版127例)から、性別、年齢、身体症状、精神症状、船内での役割、ストレス要因、診断分類、支援内容、治療経過のデータを分析した。
精神保健版は身体版に比べて明確に女性が多く、平均年齢が低かった。相談者の約1割が乗員だった。症状は発熱が最も多く、災害ストレス関連症状、急性呼吸器感染症と続いた。発熱は男性で明確に頻度が高く、災害ストレス関連症は女性で頻度が高かった。
「精神保健版」で得た精神症状の内訳は、「不安」の頻度が最も高く、ついで「不眠」、「その他の症状」、「抑うつ」、「怒り」、「自殺を思い巡らす(自殺念慮)」だった。
「女性」は男性よりも多様な精神症状を抱えており、年齢による精神症状の違いはなかった。また「乗員」は不眠、抑うつの症状が乗客よりも多く認められた。
ストレス内容では、コロナウイルス(COVID-19)そのものよりも「検疫」に対する急性心理反応としての「不安」が強く、女性と乗員で顕著にみられた。最も多い診断名は「重度ストレス反応および適応障害」で、支援内容は相談・助言からなる「カウンセリング」だった。約7割の人は1回のカウンセリングの後に直ちに精神症状が改善し、支援を終えた。
災害時など危機的状況下の公衆衛生を維持するにはメンタルヘルスサービスが不可欠であるとしている。