世界の養鶏産業に甚大な被害をもたらすワクモの共生細菌を解明―新たな作用機序による化学駆除剤の開発に期待:農業・食品産業技術総合研究機構ほか
(2022年10月21日発表)
約1mmの大きさでニワトリの血を吸うワクモ ©農研機構
(国)農業・食品産業技術総合研究機構と環境薬剤メーカーの住化エンバイロメンタルサイエンス(株)は10月21日、ニワトリの血を吸って養鶏産業に甚大な被害をもたらす害虫ワクモの共生細菌群を解析し、特定したと発表した。この成果を元にワクモの必須共生細菌を除去する化学薬剤の探索を進め、新たなワクモ駆除剤の開発に繋げたいとしている。
ワクモはニワトリの血液を吸って生活するダニの一種。養鶏場で大繁殖し、ニワトリがそのストレスによって産卵数を減らすことから経済的なダメージが大きい。ヨーロッパではワクモによるニワトリの被害額が2億ユーロ(約260億円)に上っている。
養鶏場が駆除に使ってきたこれまでの市販の殺虫剤は、薬剤抵抗性を持つ個体群の増加により効きにくくなり、新たな作用機序による殺虫剤の開発がまたれている。
動物の血液のみで育つ害虫(吸血性害虫)に共通するのは、必須共生細菌によるビタミンの供給が欠かせない。動物の血液はたんぱく質や塩類をたくさん含むものの、害虫の生育に必要なビタミンB類がほとんどないためだ。
そこで吸血性害虫は、体内の共生細菌が合成したビタミンB類を補充することで生きてきた。すなわち必須共生細菌を標的にした殺虫剤を開発すれば、薬剤抵抗性を回避できる可能性が出てきた。
研究チームは、日本国内の18か所の養鶏場から集めたワクモのサンプル144個体について、細菌のDNA配列を次世代シーケンサーで読み取り、データベースに登録されている配列と照合した。
こうして主要なワクモの共生細菌を7種みつけた。中でも「バルトネラ属細菌A」だけが、144個体の全てに共通した必須共生細菌である可能性が示された。
欧州のワクモがもつバルトネラ属細菌と、日本で得られたバルトネラ属細菌のDNA配列がとてもよく似ていることから、ワクモは地域を問わずバルトネラを必須の共生細菌として持っているとみている。
バルトネラ属細菌を標的にした化学薬剤はワクモの防除に有効と考えられる。今後、この共生細菌を除去する化学薬剤を探索し、既存の殺虫剤に対し抵抗力を持ったワクモにも殺虫効果を示すような新たな作用機序による駆除剤の開発につなげていく。
栄養が偏ったエサに頼る昆虫やダニにとっては、共生細菌による栄養の補給が生存に必須である。今回の研究成果は、他の害虫駆除にも応用が可能とみており、新しい殺虫剤の開発につながると期待される。