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窒素注入した曲面グラフェンの触媒能力の起源を解明―金属状態と絶縁体的状態の2つが共存することを発見:岡山理科大学/筑波大学ほか

(2022年10月24日発表)

 岡山理科大学と筑波大学、東北大学、大阪大学、米ジョンズ・ホプキンス大学の共同研究グループは10月24日、貴金属を使用しないグラフェンの優れた触媒能力の起源を解明したと発表した。白金などの高価な貴金属を用いない炭素系電極触媒や高機能触媒担体の研究開発の促進が期待されるという。

 グラフェンは炭素原子が蜂の巣状につながった2次元シート状物質。炭素原子を部分的に窒素原子や硫黄原子に置き換えると、不活性なグラフェンが化学的に活性な状態に変わったり、グラフェンを立体的な曲面構造にすると、非金属触媒や導電性の触媒担体として優れた性質を示すことが知られ、その応用を目指す研究が精力的に進められている。

 しかし、3次元的な構造を持つグラフェンと、グラフェンへの窒素や硫黄のドープとの組み合わせがどうして高機能な触媒に結び付くのかはよく分かっていなかった。

 研究グループは今回、3次元ナノ多孔質構造を持つグラフェンの曲面上の炭素原子を窒素原子で部分置換した、窒素ドープ3次元グラフェンを作り、その電子物性を詳細に調べた。

 その結果、曲面と窒素置換の組み合わせにより、電子が閉じ込められた状態と、電気が良く流れる金属的な状態が共存することが分かった。つまり、グラフェンの立体的な曲面構造に、窒素をドープすることで、グラフェンに電気が容易に流れる金属的な状態と、電子が曲面上の一部の領域に閉じ込められているために不安定で触媒反応に利用しやすい状態とが共存した特異な電子状態になっていることを発見した。

 これにより、3次元構造を持つグラフェン上で触媒反応が起こる場所や、担持触媒へ効率よく電子を輸送し触媒反応を促進する機構が判明、この成果をもとに、高い電気伝導性を有する非金属触媒の設計が可能になったという。

 今後は関係企業と連携し、実用的な非金属触媒や導電性の触媒担体の開発を進めたいとしている。