[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

皮膚の健康守る仕組み解明―老化治療に手がかりも:熊本大学/筑波大学

(2022年10月24日発表)

 熊本大学と筑波大学の研究グループは10月24日、加齢に伴う皮膚の老化から健康を守るのに重要な働きをしているたんぱく質を突き止めたと発表した。このたんぱく質は常に分裂を繰り返して新陳代謝する表皮幹細胞の分裂速度を調整しており、その働きが加齢で衰えると皮膚のたるみや傷の治りにくさなどにつながる。加齢に伴う皮膚の老化や疾患の治療法開発などに役立つという。

 外界のさまざまなストレスにさらされる皮膚は常に新陳代謝を繰り返してその組織や機能を維持しているが、加齢に伴ってその機能は徐々に失われさまざまな皮膚疾患や皮膚のたるみやしわの原因になる。新陳代謝は分裂を繰り返す表皮幹細胞が担うが、研究グループはこれまでに表皮幹細胞には分裂速度の速い集団と遅い集団が存在することを明らかにしていた。

 そこで研究グループは今回、これらの分裂速度がどのように調整されているのかに注目、研究を進めた。その結果、表皮内にある特定のたんぱく質「フィブリン-7」がこれらの表皮幹細胞集団の分裂速度を調整していることを突き止めた。このたんぱく質は、細胞集団の外でそれらの機能を制御するなどの働きをしている細胞外マトリクスを構成する高分子複合体の一つとして知られていた。

 研究グループはこのたんぱく質に注目、遺伝子工学的手法により体内でフィブリン-7を作れないようにしたマウスを用いた実験などを進め、その機能を詳しく調べた。その結果、フィブリン-7が働かないと、表皮幹細胞の分裂が減少して傷が治りにくくなることなどが分かった。さらに、皮膚細胞の足場となっている基底膜が不規則に厚くなるなどの異常が生じることも明らかになった。

 これらの結果から、研究グループは「フィブリン-7は細胞外マトリックスたんぱく質との物理的な相互作用を通じて、表皮幹細胞の微小環境を維持していることが分かった」としている。そのためフィブリン-7を介した表皮幹細胞の微小環境を制御することができれば、皮膚の慢性炎症や治りにくい傷、加齢による皮膚疾患の治療法の開発につながると期待している。