酵母とキノコの二面性を持つ「シロキクラゲ目」の新種発見―「酵母」「キノコ」と「カビ」の分類見直しと、新たな体系作りを提案:筑波大学/理化学研究所
(2022年11月16日発表)
筑波大学山岳科学センターの山田宗樹さん、同大学生命環境系の出川洋介准教授、(国)理化学研究所バイオリソースセンターの遠藤力也研究員らの研究グループは11月16日、南西諸島などで探索したキノコの一種、シロキクラゲ目の2属を調査した結果、新種などを発見したと発表した。一生の各段階を観察し、交配試験やDNA解析などで生化学的に調べて判明した。姿形だけでは正確な区別が難しい「酵母」「キノコ」と「カビ」について、新たな分類体系作りを提案していく。
菌類はさまざまな姿形をしている。「カビ」は主に微小な菌糸であり、「キノコ」は胞子を作るために菌糸が集合した「子実体」である。出芽や分裂で単細胞のまま増殖する菌類は「酵母」と呼ばれてきた。
多くのキノコは担子菌門の菌類のグループに入る。中でもシロキクラゲ目の仲間は、発達過程でキノコと酵母の両方の形をとっている。一部の種のキノコは、目で見える大きさのゼラチン状の子実体を作っていて、中華料理で不老長寿の食材として珍重されている。一方、胞子は発芽して酵母状に増殖するが、形の上での特徴が乏しいためほとんど認識されることはなかった。
酵母は、吸収する栄養の種類や生育の温度条件、DNA配列情報、細胞壁組成などを調べ、生化学的性質によって分類される。
最近の分子系統学の発達によって、元々は酵母とされてきた一部の担子菌系酵母の分類群とシロキグラゲ類が同じ系統に所属することが明らかになり、両者は同じシロキクラゲ目(ハラタケ亜門シロキクラゲ綱)にまとめられるようになった。
そこで「キノコ」としての側面と「酵母」としての側面を統一した包括体系が必要視されるようになったものの、培養が難しく、DNA配列の情報も不十分で、分類体系の整備が遅れ、未解決のままだった。
研究グループは、キノコと記載されているジュズタンシキン科とシロキクラゲ科について、本州や南西諸島で探索し、計3種を採取した。
これらをDNA解析し、酵母形態の培養株などを調べた。その上で「有性世代の形態」「無性世代の酵母の培養性条」「接合プロセス」という生活史の各段階を観察した。
その結果、ジュズタンシキン科Sirobasidium属の1種が新種と判明。シロキクラゲ科Sirotrema属の1種はPhaeotremella属への帰属が妥当と判断された。それぞれに新しい名称がつけられた。残る1種はSirobasidium japonicum と認められ、日本では約半世紀ぶりの再発見となった。
ここで得られた菌株はいずれも理化学研究所バイオリソース研究センター(茨城県つくば市)に寄託され、研究機関へ提供可能な微生物資源として整備されている。