水素の大量製造を可能にする陽極材料の開発に成功―次世代の水の電気分解法の実用化に向け大きく前進:産業技術総合研究所
(2016年11月9日発表)
(国)産業技術総合研究所は11月9日、水を電気分解して水素を大量に製造することができる陽極材料の開発に成功したと発表した。
1960年代までは、アンモニア製造の原料水素を製造する大規模な水の電気分解(電解)による水素製造プラントが国内外にいくつもあった。
その後、石油化学で得られる安価な水素にとって変わられ、世界中からほとんど姿を消した歴史があるが、今再び地球温暖化の元凶であるCO₂(炭酸ガス)を排出しない水素をエネルギー源とする水素社会の実現に向け水電解で水素を得る新しい技術の研究開発が内外で活発化している。例えばドイツでは、風力発電の電力で水を電解して水素を作り、得られた水素を空気中のCO₂と反応させてメタンにするプラントの実証実験が進んでいるといわれる。こうした自然エネルギーで水の電解を行う研究開発は、日本でも注目され行われている。
その水の電解による水素製造法の中でも次世代の技術として期待されているのが「固体酸化物形電解セル(SOEC)」と呼ばれる電気分解を起こす電解セル(素子)に固体酸化物を使う方式。従来の水電解方式より消費エネルギーを20~30%削減できる上、白金などの貴金属電極がいらない。
しかし、これまでの研究で得られているSOECには、電解電流密度を高くできず、セル面積当たりの水素製造量が少ない、という弱点があった。
今回開発したのは、そのSOEC用の新陽極材料。高い電子伝導性を示すサマリウムストロンチウムコバルタイトと、イオン伝導性を持ったサマリウム添加セリアという二種類の粒径が10nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)レベルの酸化物ナノ微粒子を均質に複合化して得たもので、課題の電解電流密度を大幅アップすることに成功し水素を大量に作れるようにした。
産総研は、この陽極材料を使ったSOECで水電解を行ったところ電解電流密度がこれまでのSOECの3倍強に達することが確認されたとし「水素ステーション用などの水素製造装置に適用でき、電解装置を従来よりもコンパクトにできる」といっている。
今後は、実用サイズ・形状のSOECに適用して実証試験を行うなど実用化に向けた研究開発に進み高効率で低コストの高温水電解システムの実現を目指すとしている。