原発事故による放射性物質―10年で土壌表層に定着:森林総合研究所
(2022年11月22日発表)
(国)森林総合研究所は11月22日、2011年3月の東日本大震災で深刻な炉心溶融事故を起こした東京電力福島第一原子力発電所から周囲の森林に放出された放射性セシウムは深さ5cm以内の土壌表層に移動して留まり続けていることが分かったと発表した。被災地における森林管理手法の検討や、食用のキノコや木材などさまざまな林産物の放射能汚染の予測に役立つという。
放射性セシウムは半減期が約30年と長いため、その影響は長期にわたって続くと考えられている。そこで同研究所は、事故後10年間にわたって原発事故による汚染の程度や優先樹種の異なる10地点の森林を対象に放射性セシウムの分布や動きについて調べてきた。
その結果、落ち葉などが堆積した落葉層とその下の土壌調査では、落葉層の放射性セシウム蓄積量はこの10年間で減少、深さ5cm以内の鉱質土層の表層に移動していることが分かった。同研究所は「事故後初期には落葉層に存在していた放射性セシウムが時間経過とともに鉱質土層に移動した」と推定している。
さらに詳しく解析したところ、多くの調査地点で鉱質土層表層の放射性セシウム蓄積量の増加は止まっており、ほぼ一定値になっていた。この結果について、同研究所は「樹木による土壌からの放射性セシウムの吸収量と、落葉などによる地表への放射性セシウムの移動量が釣り合っている」とみており、放射性セシウムは今後も長期にわたって鉱質土層表層にとどまり続けると推定している。
今回の成果について、同研究所は「放射性セシウムの多地点における長期間のデータは信頼性が高く、世界的にも非常に貴重」とし、今後の森林管理方法の検討や、長期の放射性セシウムの動態予測に大きく貢献すると期待している。