湖沼の水位を段階的に下げてアオコの発生減少を実証―水温が下がると底層の貧酸素環境が改善、浅い富栄養化湖で有効:国立環境研究所
(2022年11月28日発表)
(国)国立環境研究所生物多様性領域の松崎 慎一郎室長と地域環境保全領域の高津 文人室長の研究グループは11月28日、湖沼に見立てた野外の大型実験プールで段階的に水位を下げたところ、水温や太陽光などの水中環境や生物群集が変化し、アオコの異常発生が減ったと発表した。気候変動による水温上昇や、農地、市街地から流入する窒素、リンによる水質悪化を改善できる新しい手法として注目される。
湖沼の富栄養化は、夏場に底層の酸素濃度が低下し、シアノバクテリア(藍藻類)が異常発生することで湖面を緑色に染めるアオコが発生する。魚類や水生環境に影響を与え、湖底に蓄積した栄養塩が溶け出して水質を悪化させ、健康被害や悪臭による住環境の悪化などを引き起こす。
こうした富栄養化の解消には、流域からの栄養塩の流入を防ぐのが最も重要だが、非常に長い時間と費用がかかる。別の対策として水位低下法があるが、水質が改善されたとの報告と共に悪化したとの相反する報告が出ていたため、野外操作実験と物理観測を組み合わせた水質改善のメカニズム解明に挑戦した。
国立環境研究所の霞ヶ浦臨湖実験施設にある2つの大型プール(縦30m、横10m)を使い、水位を操作しながら自然湖沼に近い状態の再現実験をした。
霞ヶ浦から採取した湖水と湖底泥をプールに入れ、平日毎日、少しずつ窒素やリンを含む液体肥料を投入し富栄養化を促進させた。約1ヶ月後には双方のプールの底層で酸素濃度が低下し、アオコが発生した。
その後、栄養塩の投入をやめ、プールの水位を約50cmずつ計4回、段階的に低下させ、ブイに装着したセンサーで水位と水温、表層のクロロフィル量、底層の照度と酸素濃度などを細かく計測した。
双方のプールとも底層水の酸素濃度は低かったが、水位を25%から50%低下させると酸素濃度が急激に増加し、アオコ量が目に見えて減少した。
水が深いと水温や塩分などの違いで水中に「成層」が生まれ、これがバリアとなって上下の対流が止まっていた。水位を操作し低下させることで、成層の働きが弱まり、光が底まで届いて水温が上昇した。また夜間に表層水が冷やされ、底層との水温差がなくなり上下層の水が混合したことが明らかになった。
水位の操作によってプール底層の酸素濃度が増加し、底泥から栄養塩が溶け出し難くなり、アオコの減少につながった。
一方で水位操作をしなかったプールでは、表層泥は黒ずんで酸素が欠乏した状態だったが、水位操作したプールでは黄土色から茶褐色で酸化的な状態に変化していた。水位操作でも大型ミジンコ類や付着藻類が増減した兆候は認められなかった。これは生物相に関わらず、水位低下によって物理環境が速やかに変化し、水質が改善されたためとみている。
実際には水門等の操作によって湖沼の水位は容易に短時間で変えられる。洪水対策のように事前に湖沼の水位を下げる管理と合わせれば、複数の目的を達成する湖沼管理が可能になるものとみている。