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2種類の原子時計を用い暗黒物質の探査に挑戦―暗黒物質と電子との相互作用の強さに新たな知見:産業技術総合研究所

(2022年12月7日発表)

 (国)産業技術総合研究所と横浜国立大学の共同研究グループは12月7日、イッテルビウム光格子時計とセシウム原子泉時計の2台の高精度な原子時計を用いて、宇宙に大量に存在する正体不明の暗黒物質(ダークマター)の探索を行ったと発表した。

 原子時計の長期運転により、先行研究では手の届かなかった非常に相互作用が弱い、未開拓領域の探索に踏み込むことができ、原子時計の長期運転が基礎物理学にも貢献することを示せたとしている。

 近年、暗黒物質の候補の1つとして、電子質量(約9×10-31kg)よりも20桁以上軽い超軽量暗黒物質が提案されている。非常に軽いこの暗黒物質は粒子ではなく、波として振る舞う。もし、暗黒物質の波が原子などの通常の物質と相互作用すると、基礎物理定数が周期的に変動し、それに伴い、原子時計の周波数が周期的に変動すると理論的に予想されている。

 そこで、研究グループは、イッテルビウム光格子時計とセシウム原子泉時計の周波数比データからそのような周期的な変動を探索した。

 時間の単位である「秒」はセシウム原子時計と共鳴するマイクロ波周波数(約9.2GHz)で定義されており、セシウム原子泉時計が16桁の精度でそれを実現している。マイクロ波よりも周波数の高い光(約500THz)を用いた光格子時計は時間の精度をさらに1~2桁向上できるため、秒の再定義の有力候補とされている。

 原子時計の精度がここまで上がってくると、基礎物理定数の周期的な変動を高感度で検知できる可能性があるとされているが、その実現にはセシウム原子泉時計とイッテルビウム光格子時計の両方を長時間、例えば10日以上、高い稼働率で同時に運転することが重要で、これまでその成功例は報じられていない。

 研究グループは今回、この高稼働率運転を達成し、暗黒物質の探索を実施した。

 その結果、光格子時計とセシウム原子泉時計の周波数比が周期的に変動する証拠は今回の測定データからは得られず、質量範囲10-58kg~10-56kgの超軽量暗黒物質と電子との相互作用に関しては、このような相互作用はないか、あるいは、あるとしてもその強さは非常に弱い、という知見が得られたという。

 今後、原子時計の高精度化、堅牢(けんろう)化を進め、引き続き国際原子時に貢献するとともに、暗黒物質の探索をはじめとする基礎物理学の研究も進めたいとしている。