[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

1662年日向灘地震の新たな断層モデルを構築―スロー地震がM8級の揺れと大津波に関与:京都大学/産業技術総合研究所ほか

(2023年1月11日発表)

 京都大学、(国)産業技術総合研究所、北海道立総合研究機構の共同研究グループは1月11日、1662年に宮崎県沖の日向灘で起きた過去最大級とされる日向灘(ひゅうがなだ)地震の新たな断層モデルを構築したと発表した。シミュレーションなどによる評価の結果、この地震はスロー地震が関与したもので、M(マグニチュード)7.9の巨大地震であった可能性が示されたという。

 九州東方の日向灘はM7級の海溝型地震が数十年間隔で発生する領域として知られる。現地で外所(とんところ)地震とも呼ばれる1662年の地震はなかでも最大級とされ、M7.6と推定されてきた。

 過去100年間に発生した地震では経験したことのない強い揺れと大きな津波が特徴で、いくつかの断層モデルが提唱されてきたが、揺れと津波の両方を説明し得るモデルはなく、この地震の詳細は不明だった。

 ところが、2011年に起きた東北地方太平洋沖地震の解明研究が進んできたのをきっかけに、強い揺れと大きな津波を共通の特徴とする1662年日向灘地震への関心が浮上、研究グループは同地震のメカニズム解明に取り組んでいた。

 東北地方太平洋沖地震が巨大化した原因の一つに考えられているのは、プレート境界浅部で発生する「スロー地震」と呼ばれる地震の関与。スロー地震は通常の地震よりも断層面がゆっくりとずれ動く現象の総称で、東北地方太平洋沖地震では断層が特に大きく滑った領域と本地震発生前にスロー地震が発生していた領域が重なっていたことが明らかになっており、スロー地震の本地震巨大化への関わりが考えられている。

 研究グループは、近年の観測で明らかになった浅部スロー地震の活動状況や日向灘における最新の地球物理学の知見などを取り入れ、「日向灘の浅部スロー地震震源域が1662年日向灘地震の大津波の波源域になったのではないか」という仮説をたてて断層モデルを構築した。

 モデルは、強い揺れをもたらす最も深い断層(①)、その浅部延長側の断層(②)、大津波に関係する浅部スロー地震の震源域である断層(③)の3つの断層からなる。断層③は大地震時には断層が早くすべり、すべり量は断層①と②に比べ数倍大きくなる。また、深さが浅いため、断層①に比べて津波を発生させやすい。

 この断層モデルから得られる地震の規模はM7.9となり、1662年日向灘地震がM8級の巨大地震であったことが示されるとともに、浅部スロー地震震源域が津波の波源域になり得るという仮説が支持されたという。