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対馬における多数のシカ、感染症媒介するマダニを増やす―ツシマヤマネコに対するウイルス感染のリスク懸念:森林総合研究所

(2023年1月12日発表)

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対⾺で採集されたフタトゲチマダニの成⾍オス 
©森林総合研究所

 (国)森林総合研究所は1月12日、長崎県の対馬(つしま)でマダニ調査を行ったところ、シカの多い場所ほど、ネコやヒトなどに致死率の高い感染症を引き起こす重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルスを媒介するフタトゲチマダニが増えることが分かったと発表した。

 シカの増加はフタトゲチマダニを増加させ、マダニ媒介感染症の増加に結び付く可能性を示唆するもので、農林業被害低減のためのシカの捕獲に加えて、感染症対策の観点からもシカ対策の加速が重要としている。

 対馬には絶滅危惧種である天然記念物のツシマヤマネコが生息しているが、最近捕獲されたツシマヤマネコでSFTSの抗体陽性が見つかったことから、研究グループはSFTSの広がりやその影響を懸念、マダニ類の生息状況などの把握に取り組んだ。

 具体的には、地表や茂みで布を引きずり、布に付着したマダニ類を採集する旗ずり法を用い、対馬の広い範囲でマダニ類の生息調査を実施した。

 また、近年シカ類など大型の偶蹄(ぐうてい)類の生息数が多い地域ではダニ類の増加が明らかになってきたこと、対馬ではニホンジカが非常に高密度で生息していることから、研究グループはシカとマダニの関係に注目、シカの活動とその影響の程度などを加味したシカの密度指標と、マダニ類の生息状況との関係を調べた。

 その結果、採集したマダニ類は合計131頭で、このうちの127頭がSFTSウイルスを媒介する可能性があるフタトゲチマダニだった。そして、シカの密度指標が高い地点ほどフタトゲチマダニの採集数が急激に増えること、つまり、シカが多い場所で、SFTSウイルスを媒介するフタトゲチマダニが多く生息することが明らかになった。

 この結果は、シカの増加がツシマヤマネコ個体群への感染リスクに関わる可能性を示唆しているが、ツシマヤマネコのSFTSウイルスに対する感受性は明らかになっていないことから、早急にリスク評価が求められるとしている。また、SFTSはヒトにも重篤な症状を引き起こす人獣共通感染症でもあることから、ヒトの野外活動への注意喚起なども大切としている。