光を99.98％以上吸収する至高の暗黒シートを開発―漆の類似成分を素材に用い可視光の反射抑制に成功：産業技術総合研究所ほか
(2023年1月18日発表)
開発した光吸収率99.98％以上の「至高の暗黒シート」
(提供：産業技術総合研究所)
(国)産業技術総合研究所と（国）量子科学技術研究開発機構の共同研究グループは1月18日、漆の類似成分であるカシューオイル黒色樹脂の表面に微細な凹凸を形成して光を閉じ込め、可視光の99.98％以上を吸収する“至高の暗黒シート”を開発したと発表した。
光吸収率がこれまで最高だった極低反射率の“究極の暗黒シート”は一般環境で利用するには素材がもろかったり、可視域の反射率に限界があるなどの弱点があったが、新シートはそれらの問題を解決するとともに、くすみもギラつきも少ない深い黒を実現した。圧倒的な黒さによる新たな用途の開拓が期待されるという。
研究グループは紫外光から可視光、赤外光にいたる光を99.5%以上吸収できる“究極の暗黒シート”を2019年に開発した。サイクロトロン加速器から放出されるイオンビームを樹脂に照射して、鋭く微細な円錐状の凹凸からなる光閉じ込め構造を形成し、これを黒色樹脂表面に転写して黒色シートを得た。
このシートは、紫外から赤外域で吸収率99.5% 以上、反射率0.5%以下を実現しただけではなく、熱赤外線では99.9％以上の吸収率を達成した。しかし、黒体材料の需要が特に多い可視域では反射率が0.3％～0.5％程度に留まっていたため、その改善が求められていた。
研究の結果、反射率低減を制約していた原因が、素材として用いていたカーボンブラック顔料にあることを突き止めた。従来の“究極の暗黒シート”はカーボンブラック顔料を混練したシリコーンゴムに光閉じ込め構造を転写していた。カーボンブラック粒子は可視光の波長と同じサイズかそれ以上の凝集体を作り光を散乱しやすくなり、光閉じ込め構造から散乱光が一部逃げ出していた。
そこで研究グループは、カーボンブラック顔料を用いない低散乱な黒色基材を探索、今回、漆塗りの代用にも用いられるカシューオイル樹脂を見出した。新技術は、”究極の暗黒シート“同様、イオンビームとエッチングを用いて光閉じ込め構造原盤を作り、それを転写、カシューオイル樹脂液に型押して暗黒シートを得る。
得られた樹脂膜は散乱反射（くすみ）、鏡面反射（ギラつき）とも少なく、可視光の反射率が従来の暗黒シートより一桁以上少ない0.02%以下を実現した。
この“至高の暗黒シート”の深い黒はレーザーポインタの光が消えて見えるほどで、触れても大丈夫な素材で世界一の黒さを達成した。視覚表現にこれまでになく高いコントラストを提供できるという。
