新パワー半導体の候補物質中の水素の役割にメス―擬水素の素粒子ミュオンを用いて電子状態を解明:高エネルギー加速器研究機構ほか
(2023年2月6日発表)
高エネルギー加速器研究機構(KEK)とJ-PARCセンター、茨城大学、東京工業大学などの共同研究グループは2月6日、シリコンに代わる新たなパワー半導体材料として注目されているβ型酸化ガリウム(β-Ga2O3)について、電気特性を左右する不純物水素の電子状態を素粒子ミュオンを使って明らかにしたと発表した。β型酸化ガリウム材料の開発指針となる成果が得られたとしている。
パワー半導体は電圧の変換や電流の直交変換などに用いられる素子で、電気自動車や太陽光発電などの進展、普及に伴い、低損失で高効率のパワー半導体が求められている。
β型酸化ガリウムは、現在主に用いられているシリコンよりも高耐圧で低消費電力が見込め、安価で高性能なデバイスの作成が期待されており、次世代のパワー半導体の候補物質になっている。
この材料の開発で重要な課題の一つになっているのが、水素が電気特性に及ぼす影響の把握。水素は水や水蒸気の形で至る所に存在しており、製造工程などで不純物として含まれてしまうと、電気特性が意図せずに変化してしまうという恐れがある。しかし、微量の水素を直接的に調べる手法は限られており、水素の影響に関する知見も限られていた。
研究グループは、不純物水素の実験などで擬水素として利用されてきた素粒子ミュオンに注目、大強度のミュオンビームが取り出せるJ-PARCの加速器実験施設を利用して、擬水素としてのミュオンの局所電子状態を詳細に調査した。
その結果、ミュオンはそれ自身で電子のドナー(供与)とアクセプター(受容)役に対応する2つの準安定状態をとることを解明した。とりわけアクセプター状態の存在は今回の研究で初めて明らかになった。
また、アクセプター状態のミュオンは伝導帯と電子をやりとりし、一時的に中性の状態を経由しながら結晶中を高速に拡散していることが示され、これにより微量水素がβ型酸化ガリウム中の電気特性に影響を及ぼす新たなメカニズムの一端が明らかになった。
今回得られた知見は、小型でより高性能なパワー半導体の実現に向けた材料開発に指針となることが期待されるという。