スギの全染色体の塩基配列解読に成功―花粉のないスギの開発や気候変動の影響予測に期待:森林総合研究所ほか
(2023年3月1日発表)
ゲノム解読に使用したスギの自殖系統(茨城県つくば市)
©森林総合研究所
(国)森林総合研究所、基礎生物学研究所などの研究グループは3月1日、スギの全染色体の塩基配列を解読し、5万5,000個に及ぶ巨大な遺伝子とその位置を特定し、品種間の配列を比較できる「参照ゲノム配列」を構築したと発表した。将来のスギ花粉症対策として、花粉を出さない有用種の育成などに役立つと期待されている。他に東京大学、新潟大学、筑波大学、国立遺伝学研究所が加わった。
戦後の高度経済成長に伴う膨大な木材需要を受けて、1960年代に国内各地で盛んにスギが植林された。これらが生長し大量の花粉を飛散させていることが花粉症の原因で、大きな社会問題になっている。
現在、開発、育種が進められている花粉を出さない無花粉品種のスギは、まれな遺伝子異常で花粉が作れなくなった雄性不稔のスギを利用している。
スギのゲノム(全遺伝情報)はイネの20倍もある巨大で複雑なため解読が遅れていたが、最新のゲノム解読装置の登場で急速に解読が進むようになった。
研究グループは、11本のスギの染色体のそれぞれのゲノム配列を正確に解読し、高精度な「参照ゲノム配列」を作った。これは種を代表するゲノム配列の基準になるもので、近縁種をはじめ品種間の配列比較の際に高度な解析に役立つ。
スギなどの針葉樹は、自分以外のスギからの花粉で受精して次世代の種子を作る。だが、このままでは複雑で解読が難しいため単純化を工夫した。同一のスギから取った花粉と卵とを受精させ、「自殖」と呼ばれる交配種で解読した。これによって全染色体をカバーする91億もの塩基対が確認された。
このうち97.4%以上が染色体上のどこにあるかが特定できた。参照ゲノム配列と、別途作られたスギの遺伝子地図とを突き合わせたところ、目標の特定DNAマーカー約6,500個が正しく照応していた。
既知の4つのスギの雄性不稔遺伝子についても、DNAマーカーを含めて染色体の位置が特定できた。
同じような塩基配列が繰り返し出現する特徴の「繰り返し配列」が、ゲノム全体の81%以上を占めていたことも発見した。「繰り返し配列」には様々な種類があり、種類によって飛躍的に数が増えた時期が異なる。今から約700万年前までの特定の時期に、数が急増したものと推定される。
研究グループが構築した参照ゲノム配列によって、特定の性質に関連する遺伝子を迅速に取り出せるようになったことから、将来、有用な品種の開発、育成にも役立つと期待されている。
ゲノムや遺伝子にはそれぞれの進化の道筋が記録されている。スギが過去の地球の気候変動にどのように適応して生き残ってきたか、またこれから生存していけるかについてもより正確な予想のための手掛かりになるとしている。