無機ナノファイバーに金属原子を挿入する技術開発―柔軟な構造の超伝導ファイバーなど実現へ:東京都立大学/産業技術総合研究所ほか
(2023年3月3日発表)
東京都立大学と(国)産業技術総合研究所、東北大学、筑波大学などの共同研究グループは3月3日、遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)のナノファイバーの内部に金属原子を効率的に挿入する技術を開発したと発表した。金属原子とTMCナノファイバーの多彩な組み合わせによる新機能・新材料の開発が期待されるという。
遷移金属モノカルコゲナイド(TMC)は、タングステンやモリブデンなどの遷移金属原子と、イオウやセレンなどのカルコゲン原子で構成される細線状の化合物。
代表的な細線状のナノ材料としてカーボンナノチューブ(CNT)があるが、CNTは異なる直径や原子配列をもつ構造の混合物であることから、物性の制御などに向いた構造の均一な細線状ナノ材料の開発が求められていた。TMCはそうした材料の有力な候補。
また、TMC細線が束になった結晶の隙間にアルカリ金属などを挿入した三元系TMCと呼ばれる物質は、挿入する原子の種類によっては超伝導を示すことが知られており、こうした新機能、新物性の実現を目指して三元系TMCナノファイバーの新たな合成法の開発が望まれていた。
研究グループは今回、高い結晶性を持つ二元系TMCのナノファイバーを出発原料にして、三元系TMCナノファイバーを合成するという新技術を開発した。開発したのは、金属の蒸気に試料を晒(さら)すという簡単な手法を用いたもので、具体的には、化学気相成長法で合成したタングステン・テルル(W6Te6)ナノファイバーに対し、昇華法によってインジウム(In)原子をナノファイバー内部に挿入した。
Inの蒸気にナノファイバーを晒すことで細線間の隙間にIn原子が侵入するという仕組み。ナノファイバーの断面を原子分解能電子顕微鏡で観察したところ、In原子がW6Te6細線の間に充填されている様子が確認されたという。
今回の新手法はIn以外の様々な原子の挿入に適用できることから、これまで実現されていない組成の三元系TMCファイバーの実現も期待されるという。今後、新たなTMCの物質開発や作成技術の高度化を通じ、超伝導特性を示す柔軟かつ安定なナノファイバーの実現や、繊細な配線・透明電極・導電性複合材料などの応用に結び付くことも期待されるとしている。