月面重力下での筋肉変化解明―量より質の変化が課題に:宇宙航空研究開発機構/筑波大学
(2023年4月19日発表)
(国)宇宙航空研究開発機構(JAXA)と筑波大学は4月19日、月面での長期滞在で生じる筋肉の質的・量的変化をマウスの実験で突き止めたと発表した。国際宇宙ステーションで月面の重力環境を再現した実験によって、月面では筋肉量の減少は防げるものの体を支える遅筋が速い動きに必要な速筋に変化する速筋化の抑制は難しいことを明らかにした。人類の宇宙進出や加齢に伴う骨格筋の機能低下の予防・治療法の確立にも役立つとみている。
実験で用いたのは、微小重力から地上と同じ1Gまでの重力環境を再現できる世界で唯一の可変人工重力研究システム。JAXAが開発したこの装置を国際宇宙ステーションの日本実験棟「きぼう」で用い、微小重力と地上の重力(1G)、月面重力(1/6G)を再現して約1カ月間にわたりマウスを飼育した。
この結果、微小重力下ではマウスが自らの姿勢を保持するのに必要なヒラメ筋(人間のふくらはぎに相当)の重量や筋繊維の断面積が減少したが、月面重力下ではこの委縮はほとんど見られなかった。一方、遅筋が速筋に変化するという微小重力下で生じる質的変化は月面重力下では微小重力下よりも低くなったものの完全には防げず、筋の質的変化を抑制するには不十分であることが分かった。
この結果について、研究グループは「人類の宇宙進出に貢献するだけでなく、地上における骨格筋の筋委縮を防ぐ方策の構築にもつながる」として、加齢に伴う骨格筋の機能低下であるサルコペニアを含むさまざまな筋疾患の予防・治療法の確立にも役立つと期待している。