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カンキツの品種を素早く簡単に見分けるDNA検査法を開発―優良品種の海外流出と無断栽培を防ぎ、生産者の権利を守る:岡山大学/農業・食品産業技術総合研究機構ほか

(2023年5月9日発表)

 岡山大学環境生命自然科学学域の門田 有希准教授と(国)農業・食品産業技術総合研究機構 果樹茶業研究部門の島田 武彦研究領域長らの研究チームは5月9日、カンキツ類の品種を素早く、簡単、正確に識別できるDNA検査法を開発したと発表した。日本の農産物のブランド品種が海外に流出し無断で栽培されている被害を防ぐため、税関での水際検査に役立てるのが目的。この方法で新たにブドウやリンゴ、サツマイモ、キクなどの品種識別法の開発にも取り組んでいる。

 日本で開発、育成された優良農作物が海外へ不当に流出し、無断で栽培され、再び日本へ逆輸入されるような被害が増えている。税関などで防止しようにも高価な機器や設備が必要で、検査時間もかかり実用には向かなかった。

 新たな品種識別としてレトロトランスポゾンによるDNA検査法を開発した。

 レトロトランスポゾンは、特定のDNA断片を切り出して別の場所に再度挿入し、移動することから「動く遺伝子」と呼ばれ、多くの真核生物のゲノム内にも普通に存在する。植物の形態や花の色の変化にはこうした「動く遺伝子」が関わっていることが知られている。

 研究チームは、動く遺伝子を高速シーケンサー(塩基配列読み取り機)で解析し、品種を正確に識別できるDNAマーカーを開発した。DNAマーカーで増幅したDNA産物を、マッチ棒サイズの試験紙を使い拡散クロマト法によって簡単で素早く判定できる。

 DNA溶液と色素の混合液に15分間漬けておくだけでシグナルパターンが現れ、陰性か陽性かを読み取り、品種を正確に判定できる画期的な手法。

 政府は農水産物や食品の輸入拡大を進め、2030年までに5兆円を目標にしている。この際、日本で育成された優良品種が海外に流出し、現地で栽培されまた日本に逆輸入されるような心配がある。権利侵害があれば科学的に立証が可能。税関での水際検査に有効な手法になると期待が集まっている。