難病、気管支喘息(きかんしぜんそく)抑制に新方法―マウス使った実験で好結果:理化学研究所ほか
(2023年5月10日発表)
(国)理化学研究所と千葉大学の共同研究グループは5月10日、食品や、医薬、農薬など様々な分野に使われているカルボン酸の一種「プロピオン酸」を授乳期の母マウスに投与すると子供のマウスの気管支喘息(きかんしぜんそく)が抑制されることを発見したと発表した。カルボン酸は、腸内の細菌が食物繊維を分解する際に作られる脂肪酸。そのカルボン酸の一つプロピオン酸に気管支喘息を抑える働きがあることがマウスレベルではあるが分かった。世界では3億人以上もの人々が気管支喘息に苦しんでいるとされているだけに今後の発展が期待される。
ヒトの腸管内には、1,000種類、菌数にしておよそ100兆個もの細菌が菌種ごとに塊で存在している。
プロピオン酸は、そうした腸内細菌が作る炭素鎖の短い短鎖脂肪酸と呼ばれる発酵産物の一種で、食パン、チーズといった身近な食品や医薬品、農薬などに幅広く使われている。形状は液体で、分子式はC3H6O2。
今回の研究を行ったのは、理研生命医科学研究センター粘膜システム研究チームの大野博司チームリーダー、千葉大大学院 医学研究院の下条 直樹教授(研究当時)らのグループ。
研究では、授乳期の母マウスのプロピオン酸摂取が子マウスの気管支喘息の一種アレルギー性気道炎症にどのように影響するのかを調べた。
方法は、プロピオン酸、酢酸、酪酸の3種類の短鎖脂肪酸をそれぞれ含む3種類の飲料水と、普通の飲料水の計4種類のどれかを自由に摂取できる環境を用意した。そして、マウスが出産して母になったら授乳期中はその4種類の内の1種類のみを飲ませるようにした。
こうして育てて、6週齢に達した子マウスの気管内にダニの一種チリダニを投与した。
すると、プロピオン酸飲料水を投与した母マウスの子は、他の群のマウスの子と比較して気管支や肺胞から採取した液体中の炎症性免疫細胞の割合が低下することが判明、授乳期の母マウスにプロピオン酸を投与することで、子に発生する気管支喘息の病態の一つアレルギー性気道炎症を抑制できることが分かった。
腸内細菌や短鎖脂肪酸は、肥満や糖尿病、大腸がんなどの消化器疾患に深く関与しているとされているが、アレルギー疾患に対する短鎖脂肪酸の働きについてはまだ詳しく分かっていないといわれる。今回の成果は「アレルギー疾患に対する新しい治療法の開発に貢献すると期待できる」と研究グループは話している。