[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

難病ALS解明に手掛かり―早期診断・治療に道:筑波大学ほか

(2023年5月12日発表)

 筑波大学と東京医科大学は5月12日、運動神経が障害され全身の筋力が急速に衰える難病「筋委縮性側索硬化症(ALS)」の早期診断・治療に道をひらく新しい手がかりを得たと発表した。髄液中の特定のたんぱく質を作る際に働くメッセンジャーRNA(mRNA)の異常の程度が、症状の進行度などと関係していることを突き止めた。ALSの早期診断のほか治療法の開発にもつながるという。

 ALSは運動神経細胞が選択的に細胞死を起こす難病の一つで、壮年期に発症しやすくなる。ALSの5~10%は生来の遺伝子異常が関係する家族性だが、残りの90%は遺伝とは関係のない孤発性といわれ、毎年10万人に1~2人が発症する。根本的な治療法はなく、確実に診断する技術もなかった。

 研究グループは今回、孤発性ALS患者の髄液中にある神経伝達物質「グルタミン酸」を受け止める受容体たんぱく質の異常に注目、詳しく解析した。神経細胞は神経伝達物質のグルタミン酸をやり取りして興奮を伝えあうが、このやり取りに必要な神経細胞の受容体「AMPA」を形成する酵素たんぱく質の一つ「GluA2」が孤発性ALS患者では十分に作られていないことが分かった。

 さらに、孤発性ALS患者の髄液を詳しく調べたところ、GluA2を作るのに必要な正常なmRNAの働きが明らかに不十分であることが確認できた。特に、正常でないmRNAの割合が高くなっている患者ほど、症状、特に下肢の症状が進行しており、病気も長引いている傾向がみられた。

 これらの結果から、研究グループは今回の成果が「ALS診断のためだけでなく、治療可能なALSを判定するためのバイオマーカーにもなりうる」と期待している。