[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

マグネシウム金属蓄電池の製造に有力な基盤技術を開発―酸素透過を抑制する人工保護被膜で不活性化を抑える:物質・材料研究機構

(2023年5月16日発表)

 (国)物質・材料研究機構は5月16日、既存のリチウムイオン電池の生産ラインを、マグネシウム金属蓄電池生産用に転換できる画期的な基盤技術を開発したと発表した。リチウムイオン電池よりも高いエネルギー密度が期待されるマグネシウム金属蓄電池の実用化開発に道を開く成果という。

 現在、スマホなどの携帯端末から電気自動車の電源などに幅広く使われているリチウムイオン電池は、リチウムやコバルト、ニッケルなどの希少金属を使用しているため、将来資源問題や環境、経済問題を引き起こす恐れが懸念されている。

 マグネシウム金属蓄電池は、資源制約が少ない金属マグネシウムを利用した蓄電池で、リチウムイオン電池を超える高いエネルギー密度を持ち、生産性にも優れるため、リチウムイオン電池に代わる次世代の蓄電池として注目され、要素技術などの研究開発が進められている。

 ただ、マグネシウム金属は酸素や水素に触れると表面に酸化物被膜が形成され、不活性化する。そのため、マグネシウム金属蓄電池の生産には、アルゴンや窒素などの不活性ガス中での作業が必要で、外気を完全に遮断するために膨大なコストがかかることや、作業効率が大幅に低下することなどから、マグネシウム金属蓄電池の実用化は難しいとされてきた。

 研究チームは今回、乾燥した空気中でのマグネシウム金属負極の電気化学的活性の喪失(不活性化)の原因を解明、それに基づく人工保護被膜を開発した。

 具体的には、電解液・溶存酸素・マグネシウムの三相境界面に生じる超高抵抗が、大気下でのマグネシウム金属負極の電気化学活性の喪失を引き起こすことを発見。イオン交換反応を利用して、酸素透過を抑制する人工亜鉛被膜をマグネシウム金属表面に形成させることで、乾燥した空気中でのマグネシウムの酸化を抑えて不活性化を抑制することに成功した。

 これはドライルームでの電池製造を可能とするもので、既存のリチウムイオン電池の製造システムをマグネシウム金属電池の製造に転用できることを示しており、マグネシウム金属蓄電池の実現可能性を飛躍的に高める成果という。

 今後は正極材料の研究開発を加速し、早期実用化を目指したいとしている。