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高性能な自動車排ガス用新触媒を開発―高温耐久性が劇的に向上:国立科学博物館/東京都立大学

(2023年6月9日発表)

 国立科学博物館と東京都立大学の共同研究グループは6月9日、高性能な自動車排ガス浄化触媒を開発したと発表した。触媒成分は、これまでと変わらない貴金属の一種ロジウムだが耐久性が劇的に向上、高温下での触媒性能が落ちず1,000℃に長時間さらしてもほとんど性能が変わらないことを確認した。自動車は電気駆動に代わる時代を迎えようとしているが、ガソリンエンジンとの共存は長期にわたると見られるだけに貴金属使用量の低減や環境負荷軽減の面から実用化が期待される。

 自動車排ガス浄化触媒は、排ガス中の一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)、未燃焼の炭化水素などを無害化する触媒。材料として貴金属元素のロジウム、パラジウム、白金などが使われ、中でもロジウムは、価格がパラジウムや白金の10倍近く高いにも関わらずその優れた性能から年間生産量の8割近くが自動車排ガス浄化触媒に使われている。

 しかし、その切り札のロジウム触媒もオールマイティーではなく高温耐久性に課題を抱えている。自動車排ガスの処理温度は、高いところだと1,000℃近くにも達する。このため、これだけの高温に長時間さらされると劣化が生じて、性能が低下することが挙げられている。

 こうしたことから研究グループは、今回それに対応する方法としてロジウムと比較的安価な元素のモリブデンを「複合クラスター化」する手法を開発し耐久性を劇的に向上させることに成功した。

 これまでとの決定的な違いは、従来の一般的な手法だとロジウムとモリブデンとがそれぞれ別々の微粒子を作ってしまうのに対し、開発した新たな手法ではそうならずにロジウムとモリブデンが効率的に混ざった微粒子が形成される。

 得られたロジウム-モリブデン触媒の微粒子の大きさは、電子顕微鏡写真で数㎚(ナノメートル、1㎚は10億分の1m)程度を記録している。

 また、得られたロジウム-モリブデン触媒の耐久性を評価するため、触媒を空気中1,000℃で5時間加熱する劣化処理を加えて評価したところ、これまでの触媒は大幅な性能の低下が見られたが、その低下がほとんど生じないことを確認した。

 この劣化処理試験の結果から研究グループは、「自動車排ガス浄化触媒の耐久性を劇的に向上させる触媒調整手法を開発した」と自信を見せている。