接着と剥離を何度も繰り返して行える接着剤を開発―コーヒーの成分と光の利用で実現:物質・材料研究機構ほか
(2023年6月14日発表)
(国)物質・材料研究機構と(国)科学技術振興機構は6月14日、共同で接着と剥離を何度でも繰り返して行える接着剤を開発したと発表した。コーヒーに含まれている成分と光の利用で真逆の現象の接着と剥離とを繰り返すことができる仕組みを見つけた。相手の材料に接着剤が残ったりするようなことは起きないという。
19世紀の英国産業革命の時代、接着剤にデンプンのりを使った切手が発明され、郵便を一変させた。その切手のように、あらかじめ塗布しておいて使う接着剤のことをプレコート型接着剤と呼ぶ。
今回の新接着剤は、コーヒーに含まれる「カフェ酸」と呼ばれる化合物を使い実現したもので、基材(接着相手)にあらかじめ塗布しておいて、外部刺激(光)を加えると接着力が生じる。
カフェ酸は、コーヒーに含まれていることからコーヒー酸ともいわれるポリフェノールの一種。一般にはほとんど知られていない化合物だが、がんを予防する効果や動脈硬化を抑制する働きがあるとして注目されているほか、最近は半導体に流す電流を100倍アップすることができたとする研究発表もなされている。
研究グループは、市販の接着剤などに用いられているポリメタクリル酸エステルに天然由来のカフェ酸ユニットを10%程度導入し光照射で、これまで難しかった接着と剥離とを繰り返せるようにした。
実験では、この接着剤を基板に塗布した後、波長365㎚(ナノメートル,1㎚は10億分の1m)の紫外線を当てると架橋反応が起こってカフェ酸の不溶化した塗膜ができた。次いで、254㎚の紫外線を当てると今度は脱架橋反応が生じてオリジナルの高分子に戻り、接着と剥離を繰り返すことに成功した。
この新接着剤は、塗布できる基材が限定されないのも特徴で、フッ素樹脂など一般的な接着剤が苦手とする基材に対しても強力な接着力を示し、実際にフッ素樹脂のほか、シリコーン樹脂、ポリエチレン、アルミニウム基板などで強固な接着を確認している。
さらに、加熱による接着力の変化を調べたところ初期と変わらず、その操作を30回以上繰り返しても変化が見られなかったという。
研究グループは、「光でリユースやリセットが制御できる再生可能な接着剤は、幅広い分野への適用が期待できる」と実用性を強調している。