トルコ・シリア大地震の複雑な断層破壊の伝播を地震波で解明―断層ネットワークが、地震破壊の伝播速度や進行方向をコントロール:筑波大学
(2023年6月26日発表)
筑波大学生命環境系の奥脇 亮(おくわき りょう)助教らの研究グループは6月26日、2023年2月に発生したトルコ・シリア大地震が、小さな破壊を機に複雑な断層ネットワークを経由して大きな破壊に繋がったことを、各国が観測した地震波形データを使って解明したと発表した。この地域特有の複雑な断層ネットワークが、破壊の伝搬速度や進行方向を決めたものとみている。
トルコ・シリア大地震は2023年2月6日、シリアとの国境に近いトルコ南東部で2回にわたって発生した震源の浅い地震で、5万6千人以上の犠牲者と多数の建物を破壊するなど甚大な被害をもたらした。
1回目は6日午前1時17分ごろ発生し、2回目は約9時間後の同日10時24分ごろ約100km北東部で発生した。2つとも比較的近距離で、短時間に連続して起きた双子地震とみている。
この地域には複数のプレート境界が入り組み、曲がりや段差、枝分かれによる幾何学的で複雑な断層ネットワークの存在が知られている。しかし断層ネットワークが破壊をどう拡大させ、どう停止させるのかなどのメカニズムは分かっていなかった。
研究グループはトルコ、イギリスの研究者と共に、中国やブラジル、アメリカ、カナダなど世界各地の地震計から1回目39地点、2回目37地点の地震波形データを入手し、断層滑りと断層形状を同時に解析した。
1回目の地震(モーメントマグニチュードMw7.9)は、東側の小規模断層(参考図E1)で破壊が始まった。これが引き金となり、破壊は横ずれ型の東アナトリア断層帯(EAFZ)へと移り、断層面に沿ってやや右に曲がった。そこで突然方向を変え、ブーメランのように南西方向に高速で戻るという極めて珍しい連続破壊現象を起こした(E2)。またE1の北東部では別の破壊(E3)も起きていた。
2回目は、東アナトリア断層帯から西に枝分かれするスルグ断層帯(SFZ)で地震(Mw7.6)が発生した。この断層破壊は東西両方向に伝播し、断層の折れ曲がり部分が、破壊の進行や停止をコントロールしていたことも分かった。
地震の規模を表すマグニチュード(M)は、地震計の波形や振幅の大きさから算出する。これに対してモーメントマグニチュード(Mw)は、地震のエネルギーを断層面と滑り面の大きさから算出した。
1回目の地震でブーメランのように方向を変えたのは、小断層の破壊が引き金となり、その後の主要断層による大きな破壊へとスケールを拡大させた極めて珍しい破壊様式だった。
地震の断層滑りは、過去のパターンなどを参考に推測することが多いが、今回は観測された地震波データだけを解析することで断層破壊のメカニズム解明に成功した。将来は地震被害を軽減するための防災予測のシナリオ作りにも役立つ可能性があるとみている。