秒の定義の改定に向け光格子時計の高精度化で成果―絶対周波数を世界で初めて12桁まで測定:産業技術総合研究所
(2023年7月6日発表)
(国)産業技術総合研究所は7月6日、イッテルビウム(Yb)原子の波長431nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の時計遷移の直接励起を観測し、その周波数の絶対値を世界で初めて12桁(けた)まで測定することに成功したと発表した。
新たな時計遷移の周波数の絶対値を測定・公表することで、世界各国の光格子時計の開発者が容易にこの時計遷移を観測し、利用できるようになり、それによって光格子時計の高精度化の研究が世界的に進み、秒の再定義に向けた取り組みの加速が期待されるという。
光格子時計は、現在、時間の単位「秒」を国際的に定義しているセシウム原子時計よりも精度が1,000倍高く、将来「秒」の定義に採用されるとみられている時計。原子時計が15桁の精度、つまり10のマイナス15乗秒まで測定できるのに対し、光格子時計は18桁の精度で時間計測が可能になる。
レーザー光の干渉によって形成される「光格子」と呼ばれる原子の容れ物に中性原子をトラップし、それらの原子に光を当て、吸収される光の振動数(共鳴周波数)を精密に測定して1秒の長さを決めるというのがその仕組み。
産総研は先に波長578nmの時計遷移を用いたイッテルビウム光格子時計を開発、これを周波数の標準機として、国際原子時の校正に3年以上貢献している。この光格子時計のさらなる高精度化のため、波長431nmの時計遷移の絶対周波数測定に取り組んでいた。
その結果、波長431nmの時計遷移について、基底状態の原子を対象となる励起状態に直接励起したときの遷移周波数の絶対値を精密に測定することに成功した。
今回新たに絶対周波数を測定された時計遷移は、光格子時計に組み込むことで、環境外乱による時間の基準の変動を抑え、その高精度化に貢献することができるという。
今後は、578nmと431nmの2つの時計遷移を同時に運用して環境外乱の影響を見積もり、光格子時計のさらなる精度向上を図り、秒の定義改定につなげたいとしている。