難しかった柿の全ゲノム解読に成功―進化の過程が明らかに:岡山大学/かずさDNA研究所/農業・食品産業技術総合研究機構
(2023年7月12日発表)
栽培柿品種群に見られる多様な果実形状
(提供: 岡山大学 赤木 剛士教授)
岡山大学、(公財)かずさDNA研究所、(国)農業・食品産業技術総合研究機構の共同研究グループは7月12日、柿の全ゲノム情報を解読すると共に、今のような姿形をした柿ができた進化の過程を明らかにしたと発表した。柿のゲノム構造は複雑なためその解析は極めて難しいとされている。栽培柿の主要品種である農研機構が開発した「太秋(たいしゅう)」という品種の全ゲノム情報を高精度で解読することができたという。
生物が生きていく上で最低限必要な遺伝子情報のセットがゲノム。人間は、2セットのゲノムを持つが、作物にはこれより多い数のセットを持つものが多く、柿も野生種は2セットのゲノムを持つ「二倍体」だが、栽培柿は「六倍体」といって6セットものゲノムを持っている。このように現在食べている栽培で作った柿は、遺伝子・ゲノムが複雑なためゲノム解析は極めて難しい。
そのかわりに、栽培柿は、甘柿・渋柿のほか果実の形が丸いものから平たいものまで非常に多様なうえ、一本の樹に雄花・雌花・両性花が咲くなどのユニークな形質(性質や特徴)を持つ。そうした多様な形質は、近縁の野生種にはなく、倍数性進化と呼ぶ進化や栽培によって得られたものと見られている。
倍数性進化とは、ゲノムの数が変わることで新しい種ができるような進化を指す。
今回の研究では、1995年に品種登録された代表的な六倍体栽培柿である「太秋」の全ゲノム情報を最新のDNA解読方法を使って読み取ることに取り組み、染色体レベルでの高精度なゲノム配列を構築することに成功した。その得られたDNA配列情報を解析した結果、栽培柿はマメガキやアブラガキと呼ばれる二倍体の野生種から約400万~250万年前に分岐した後、約150万~200万年前に現在のような六倍体になったことが分かった。
柿属植物の二倍体種には、雄株と雌株とが存在し、それが人類と同じようにXY型の性染色体によって決まっている。
それに対し、栽培柿は、Y染色体が壊れてしまっていて、そのY染色体が壊れた時期が栽培柿の六倍体化とほぼ一致していることが分かった。
研究グループは、ゲノム情報の解読と併せ、「栽培柿にしか見られない独自の果実形質や、性別に関する進化の過程、栽培柿のユニークな形質を決めている遺伝子群の存在領域、を特定することができた」といっている。
尚、発表した研究内容は、進化学の国際論文誌「Molecular Biology and Evolution」と、ゲノム科学の国際論文誌「DNA Research」に掲載された。