多孔質材とバイオ高分子の特性を相互に生かした多孔体―断熱材に適した柔軟で透明なエアロゲル実現へ:産業技術総合研究所
(2023年7月20日発表)
(国)産業技術総合研究所は7月20日、ポリシロキサンとバイオポリマーの特性を相互に生かし、単一成分だけでは実現できなかった機能を持つ複合多孔体を作る技術を開発したと発表した。熱伝導率が静止空気のそれよりも低い光透過型の断熱材の開発などが期待されるという。
次世代の断熱材の有力候補として,エアロゲルが知られている。エアロゲルは約90%を超える高い空隙率(くうげきりつ)があり、数十nm(ナノメートル、1nmは10億分の1m)の空孔を持つ多孔体で、超軽量、低熱伝導率、低光散乱(透明)、独特なナノ空間などの特性を持つ。
近年これらの特性を生かした断熱材、CO2吸着材、触媒担体などの開発が推進されているが、シリカやポリシロキサンを主な素材として作られてきたこれまでのエアロゲルのほとんどは、曲げ変形に弱く、もろいことから実用製品としては普及していない。
天然資源を主原料とするエアロゲルの研究開発に取り組んできた産総研は、疎水性のポリシロキサンとバイオポリマーとの複合化に着目、両者を均質に複合したエアロゲルを作ることに挑戦し、今回安価な水溶性バイオポリマーとポリシロキサンとの均質な複合エアロゲルを実現する手法を開発した。
新手法は、同じ空間内で、ポリシロキサン骨格の形成とバイオポリマーの架橋(ゲル化)とを別々の工程で行う。どちらを先行させるかで2手法あり、最後にCO2を用いた超臨界乾燥で溶媒を除去しエアロゲルを得る。
疎水性を示す安価なポリシロキサン原料としてメチルトリメトキシシラン、安価で豊富なバイオポリマーとしてアルギン酸、ペクチン、カラジーナンなどを選択したところ、数十nmのスケールで均質に複合した透明なエアロゲルが得られた。
なかでもポリシロキサン-アルギン酸の複合エアロゲルは透明性と撥水性に優れ、曲げ試験ではポリシロキサン単体のエアロゲルと比べ、曲げ変形は約2倍あったという。
また、約13cm角の検体を試作し同エアロゲルの熱伝導率を測定したところ、静止空気よりも低い値を得た。この材料は、かさ密度の最適化により、さらに低い熱伝導率を実現できる可能性があり、高性能・透明型の断熱材への応用が期待されるとしている。