リン肥料混ぜた泥を苗の根に付け稲の収量大幅アップ―マダガスカルの農場で実用性を実証:国際農林水産業研究センターほか
(2023年7月24日発表)
(国)国際農林水産業研究センター(国際農研)は7月24日、少量のリン肥料を混ぜた泥を稲の苗の根に付着させて植え付けるとコメを大幅に増産できることをサブサハラアフリカの一国マダガスカルの水田で実証したと発表した。ロシアのウクライナ侵攻で化学肥料の価格高騰が国際的に起きている時だけに注目される成果で、既にマダガスカルでは稲作農家に普及し始めているという。
マダガスカルは、アフリカ大陸の南東に位置する面積が日本の約1.6倍の島国で、人口約2,900万人の共和国。一人当たりのコメの消費量が日本の2倍以上と多く、国民の半数以上がコメ作りに従事しているアフリカの“稲作大国”。
しかし、サブサハラアフリカ地域の国々の作物生産性は低く、マダガスカルの稲作農家の稲の単位面積当たりの収量は、日本の半分以下と少なく、原因は農家が貧しく肥料を十分に投入できないところにある。化学肥料の国際価格高騰は、その状況に拍車をかけ、世界銀行の報告書は2022年のサブサハラアフリカの化学肥料消費量が25%低下した可能性があると指摘している。
今回の稲作手法は、国際農研が日本の明治期の稲作技術に発想を得て考案した。少量のリン肥料と水田の土壌を混ぜた泥を水稲の根に付着させてから植え付ける水稲施肥技術で「P-dipping」と呼び、今回マダガスカル国立農村開発応用研究センター、国立アンタナナリボ大学放射線研究所との共同研究でマダガスカルの農家の水田をフィールドにして詳細に実用性を検証した。研究には、日本から(国)科学技術振興機構(JST)と(独)国際協力機構(JICA)が参加した。
研究は、サブサハラアフリカ地域の水田の半分以上が十分な灌漑(かんがい)排水設備を持たず水不足や、急激な水位の上昇で浸水を起こす、といった環境ストレスを受けやすいことから気象や地形条件の異なる18の地点の多様な農家を試験圃場として選びP₋dippingの標準的な効果や、効果の高い栽培環境を解明することに取り組んだ。
その結果、P₋dippingを施すことで1ha(ヘクタール,haは1万㎡)当たりの籾(もみ)の収量がリン肥料なしと比べて1.1t増加し、冠水を防ぎ稲株の死滅を軽減できることが分かった。
研究グループは、「マダガスカルに広くみられるリン欠乏水田でのコメ生産を改善できることや、稲の生育日数を短縮し、生育後半に気温が低下することで生じる冷害の回避にも効果を発揮することを実証した」と話している。