気候変動の総費用を非市場価値も含めて推計―持続可能な社会を目指すことの重要性浮き彫りに:東京大学/日本工営株式会社/国立環境研究所ほか
(2023年8月1日発表)
東京大学、茨城大学、筑波大学などの11大学と、国立環境研究所など4つの国立研究機関、それと日本工営(株)の計16機関から成る研究グループは8月1日、気候変動の緩和に要する費用だけではなく、生物多様性の損失や人間の健康被害といった非市場価値を貨幣換算し合算した気候変動の総費用を推計したと発表した。
パリ協定で合意された産業革命前比2℃という温暖化レベルの目標達成は経済的にも不適切でないこと、また、持続可能な社会を構築すれば気候変動の総費用を少なく抑えることが出来、持続可能な社会を目指すことの重要性がこの研究を通して示されたとしている。
2015年のパリ協定では、世界の平均気温上昇量を産業革命以前に比べて2℃より低く抑え、1.5℃に抑える努力を追求することが合意された。しかし、世界の国々のCO2削減実績は、2℃目標の達成には遠く及ばない。
その要因の一つとして、人間への健康被害や生物多様性の損失といった、GDPには計上されない非市場価値について十分な議論がなされていなかったことがあげられている。
そこで研究グループは今回、プロセスベースの統合経済評価モデルとライフサイクル影響評価(LCIA)という手法を用い、緩和費用や経済被害に加え、人間健康と生物多様性の被害も含めた評価を行い、気候変動による総合的な費用を見積もった。
具体的には、将来の温室効果ガス排出に関するシナリオ(RCP)と社会経済に関するシナリオ(SSP)を組み合わせたシナリオごとに、経済被害、緩和費用、人間健康への被害、生物多様性の損失を合計し、気候変動の総費用を評価した。
その結果、気候変動を生物多様性や健康の問題と一体的に取り扱う必要があり、その対策の加速化にはイノベーションによる緩和費用の削減が重要な役割を担っていることが示された。今回の成果は今後の気候変動対策の推進に大いに資することが期待されるとしている。