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積雪地の二毛作に道拓く牧草を開発―種苗企業が種子の販売を開始:農業・食品産業技術総合研究機構

(2023年8月17日発表)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は8月17日、積雪地でもトウモロコシとの二毛作が行える家畜用牧草の開発に成功し種苗企業が種子の販売を開始すると発表した。日本の各地で栽培されている人気の牧草「イタリアンライグラス」の新種。これまでの品種は、雪に弱く積雪地での二毛作が行えなかったが、その壁を破ることに成功した。名称は「クワトロ-TK5」。雪印種苗(株)が8月下旬から種子を販売する。

 イタリアンライグラスは、イネ科の植物の一種で、DNA(デオキシリボ核酸)を2セット持った二倍体と4セット持つ四倍体の両方がある。水田転作した畑でも安定した収量をあげられるなど栽培がしやすく、栄養価があって飼料価値の高い牧草になるという優れた特徴を持つことから国内で最も種子の流通量の多いイネ科の牧草となっており、イネ科牧草の“王様”と評価する声も聞かれる。

 そのため、現在各地で栽培されている品種は30種を越えるといわれ、関東以西では冬作にこのイタリアンライグラスを栽培して夏作にサイレージ(サイロの中で発酵させた飼料)用のトウモロコシを栽培するという二毛作が広く普及している。

 だが、早生(わせ)のイタリアンライグラスは、雪に弱く、長い期間積雪下にあると貯蔵していた栄養分がなくなって病気に対する抵抗力が落ち雪腐病(ゆきぐされびょう)に侵され枯死(こし)してしまう大きな弱点があって、北海道や東北・北陸地域など積雪期間の長い地域ではあまり作られていない。このため、これらの根雪期間(ねゆききかん)の長い地域で二毛作が行えるようにするには、イタリアンライグラスの刈り取り時期が遅くならず、耐雪性が優れている品種の開発が新たに必要と言われてきた。

 新品種「クワトロ-TK5」は、こうした問題に対応しようと農研機構の東北農業研究センター(岩手県・盛岡市)の研究陣が開発したもので、DNAを4セット持つ四倍体。「クワトロ」とは、イタリア語で4のこと。四倍体は、2倍体よりも耐雪性が優れる特性を持つが、これまで四倍体で早生のイタリアンライグラスはなく、これが初めてという。

 この新品種は、東北や北陸地域などの根雪期間が80日程度までの積雪地の二毛作に利用できるものと農研機構は見ており、宮城県や山形県など8つの県を中心に普及活動を行っていくことにしている。