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難病に強いサツマイモの新品種を開発―利用契約結び年内に種苗配布へ:農業・食品産業技術総合研究機構

(2023年8月29日発表)

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「べにひなた」および「べにはるか」、「高系14号」の塊根(令和4年10月6日撮影) (画像提供:農研機構)

 (国)農業・食品産業技術総合研究機構は8月29日、難病に強い抵抗性を持つサツマイモの新品種を開発したと発表した。南は九州・沖縄から北は北海道まで全国各地の青果用サツマイモにまん延し深刻な問題となっている「サツマイモ基腐病(もとぐされびょう)」に強い抵抗性を持つ新品種を作ることに成功したもので、「べにひなた」と名付けた。種苗を生産する団体と利用契約を結び年内に種苗の配布を開始する予定という。

 サツマイモ基腐病は、「ディアポルテ・デストルエンス」と呼ばれるかび(糸状菌)に感染することにより起こり、葉が枯れてイモが腐ってしまう。(独)農畜産業振興機構の報告によると日本でこの難病の発生が最初に見つかったのは5年前の2018年秋のこと。1年目はわずかな発病であっても対策を打たずにいると収穫が皆無にまでなってしまうようなケースも発生することがある。

 日本で最初のサツマイモ基腐病が見つかったのは、鹿児島県、宮崎県、沖縄県だったが、その後一気に北海道にまで広まり、2022年には芋焼酎用のサツマイモの確保ができず焼酎の出荷休止に追い込まれるといったトラブルまで起きたといわれている。

 しかし、この難病の基腐病に強いといえるサツマイモは、これまでなかった。

 八百屋やスーパーなどで販売されている青果用サツマイモ(青果物として消費者に売られるもの)の産地は南九州で、農研機構の九州沖縄農業研究センター(熊本県合志市)が開発した「べにはるか」と呼ぶ品種がイモの形、収量、病害虫抵抗性などのバランスの点から広く作付けされているが、基腐病には弱く、その被害が深刻な問題として残っている。 

 今回の新品種「べにひなた」は、その現在の主力品種の一つである「べにはるか」を母、デンプン歩留まり(イモに含まれるデンプンの重量割合)の高い品種「九系09178-1」を父とする交配の組み合わせから選抜して得た。

 新品種「べにひなた」は、基腐病への抵抗性が“強い”ほか「べにはるか」並みに多収で、①イモの皮の色や形状などの外観が優れる②ホクホクとした食感でやさしい甘さがある③貯蔵しても肉質が変化しにくく、青果用としてだけではなく食品加工用途での利用にも適している、といった特徴を持つことを確認しているという。

 農研機構は「サツマイモ基腐病のまん延が深刻な問題になっている南九州の青果用サツマイモ産地への普及を図ることで、サツマイモの安定生産に貢献できると期待している」と話している。