ナノワイヤーの精密な物性測定技術を開発―ビスマスのホール係数測定に世界で初めて成功:産業技術総合研究所/埼玉大学/茨城大学
(2016年12月12日発表)
ナノワイヤーのホール係数測定技術の模式図
ナノワイヤーに磁場をかけ電流を流したときに、垂直方向に発生する電圧(赤)からホール係数を決定する。
また、長手方向の電圧(青)と組み合わせて解析して、キャリア移動度を実験的に評価できる。
(国)産業技術総合研究所は12月12日、埼玉大学、茨城大学の研究者らと共同で、ナノワイヤーの精密な物性測定技術を開発し、世界で初めてビスマスナノワイヤーのホール係数の測定に成功したと発表した。新しい効果の発現が期待される各種ナノワイヤーの物性解明につながる成果という。
ビスマスは電気を運ぶキャリアの密度や移動度などで特異な物性を示す「半金属」物質。直径がナノメートルレベルの細線であるナノワイヤーにすると、ミリメートルレベルの材料では現れない新しい効果の発現や物性値の大きな変化が期待されている。しかし、ビスマスナノワイヤーは酸化しやすいため、キャリア密度やキャリア移動度に関係する物性値であるホール係数の測定は困難だった。
研究グループは今回、酸化されやすいビスマスナノワイヤーを空気にさらすことなく作製し、測定用・配線用の微小な電極類を同じく空気にさらすことなくナノワイヤーにセットする方法を考案、ナノメートルスケールの切削加工と電子顕微鏡観察が同時にできるFIB-SEM(集束イオンビーム・走査型電子顕微鏡)装置などを用いてこれらの作製・加工を実現し、ビスマスナノワイヤーのホール係数の精密測定に成功した。
測定の結果、キャリア移動度がバルク(ミリメートル大あるいはそれ以上の原子のかたまり)のビスマスと比べて大幅に低下することが初めて明らかになった。バルクとは異なりナノワイヤー中では直径サイズの制限を受けてキャリア移動度が低下し、特に極低温での移動度の低下が顕著になることが観測されたという。
今回開発した技術はビスマス以外の材料にも適用できることから、さまざまなナノワイヤーの物性解明への貢献が期待されるとしている。