世界最北の島・エルズミア島で新種の植物病原菌を発見―ツンドラ地帯の脆弱な生態系に影響を与える病原菌のひとつ:筑波大学
(2023年9月12日発表)
筑波大学生命環境系の増本 翔太助教の研究グループは9月12日、世界最北のカナダ・エルズミア島でホッキョクヤナギの葉に病気を引き起こす新種の真菌類を発見したと発表した。北極域でも宿主の種レベルの違いで異なる病原菌が存在することを示している。北極での植物病原菌の研究がほとんど進んでいないだけに貴重な一報となった。
エルズミア島は、グリーンランドやノルウェー・スピッツベルゲン島に並ぶ世界最北の島の一つ。
夏の2ヶ月間は雪が溶け、背の低い植物が100種以上顔を出す。いずれも維管束植物のシダ植物と種子植物で、根から吸い上げた水分や養分を通す道管と、葉で作られた栄養分を全身に運ぶための師管が束になっている。これらの植物はさまざまな生物のエサになり、ツンドラ地帯の生態系を支えている。
エルズミア島では国立極地研究所が中心になって植物や菌類の研究をしてきた。2022年に同研究所の内田 雅己准教授の協力で、島北部のオーブロヤベイ地区で採取した植物を、顕微鏡と形態観察、たんぱく質合成に関わる重要な分子であるリボソームRNA領域配列の解読で系統解析を実施した。
その結果、どの菌類とも異なる新種の「Rhytisma属菌」を見つけた。この菌は寒冷地のヤナギやポプラに病害をもたらし、光合成を妨げて死滅させることが知られている。黒い特徴的な子実体と胞子のうや胞子の形態からRhytisma属の菌類と分かった。
スピッツベルゲン島から報告されている種と類似しているものの、胞子の大きさや子実体の形など分類学的に重要視される形態が異なっていた。ヤナギの分布拡大や種分化に伴って広がり、形態に差が生まれたと思われる。
この研究で同じ北極域でも、地域や宿主の種レベルの違いが、病原菌の違いをもたらすことが明らかになった。
今後、北極や他の地域から近縁種のデータが集まれば、Rhytisma属菌が宿主植物と共にどのように北極域に広がったかが解明できるという。