海洋エアロゾルと気候変動―従来仮説を覆す成果:東京大学/筑波大学
(2023年9月19日発表)
東京大学と筑波大学は9月19日、海の波しぶきなどから生じて大気中を漂う海洋エアロゾルに含まれる脂肪酸が気候変動に重要な役割を果たしているとする従来の仮説は誤りだと発表した。脂肪酸は太陽光をよく吸収するとして気候変動に大きな影響を与えるとされてきたが、実際はほとんど吸収しないことを高精度の実験で初めて確認した。気候変動の予測向上に役立つと期待している。
脂肪酸による光吸収は90年以上研究されてきており、これまでは太陽光をよく吸収すると考えられてきた。ただ、それがどのような仕組みに基づくものか、その起源についてはよく分からなかった。
そこで、東京大学と筑波大学の研究グループは海洋エアロゾルに含まれる代表的な脂肪酸であるノナン酸を対象に、独自に開発した精製装置を用いて不純物を徹底的に取り除いた。その結果、精製後のノナン酸は太陽光をほぼ吸収しないことが分かった。これまで報告されてきた脂肪酸による光吸収は、実は0.1%以下というわずかな割合で含まれていた不純物によって引き起こされていることが明らかになった。
さらに、実験に用いた精製前のノナン酸試薬にどんな不純物が含まれているかについても詳しく調べた。その結果、多種多様な不純物が含まれていたが、特に太陽光を吸収することが知られている化学物質「ケトン」が0.1%以下という低濃度ながら含まれていた。そのため、研究グループは「過去に報告されてきた脂肪酸の光吸収は、このケトンによるものであった」とみている。
この成果について、研究グループは「海洋エアロゾルの光反応に関する理解が大きく進む」として、今後の気候変動の予測精度向上に役立つと話している。