[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

人工発芽が難しいランの発芽メカニズムを解明―植物ホルモンの生合成抑制が発芽を促進:鳥取大学/神戸大学/琉球大学/千葉大学/基礎生物学研究所/理化学研究所

(2023年10月12日発表)

 鳥取大学、神戸大学、琉球大学、千葉大学などの共同研究グループは10月12日、ラン科植物において、植物ホルモン「ジベレリン」の生合成を抑制すると、共生菌がいなくても共生に必要な遺伝子が自動的に活性化され、ランの発芽および共生を促進できることが明らかになったと発表した。

 ジベレリンの生合成阻害剤を発芽促進剤として用いれば、絶滅が危惧されるラン科植物の保全に繋がることが期待されるという。

 ラン科植物は、共生菌から一方的に栄養をもらって生活する「菌従属栄養植物(菌寄生植物)」の仲間で、共生菌への寄生は種子発芽の段階から始まる。そのため、栄養がない種子でも共生菌から養分をもらって発芽することができる。

 このような特殊性から、多くのランは人工的に発芽させるのが難しく、育種や保全の観点から発芽メカニズムの解明が求められていた。

 研究グループは今回、無菌的に発芽させた場合と共生的に発芽させた場合の遺伝子発現パターンをラン科植物シランで比較し、無菌発芽させた種子の遺伝子発現パターンが、共生発芽させた際のパターンとよく似ていることを見出した。

 無菌発芽と共生発芽に共通して発現量が増加した遺伝子の中には、ジベレリンの生合成に関わる遺伝子や共生に必要な遺伝子が含まれていた。また、シランの発芽では不活性型のジベレリンが有意に増加していた。

 これらの結果から、発芽に際してジベレリンを積極的に不活化させ、共生菌が定着する以前から共生に必要なシステムを自動的に活性化させていることが明らかになった。このメカニズムは、発芽と共生を同時進行させるのに重要であると考えられるという。

 さらに、ジベレリンの生合成阻害剤を主成分とする市販の成長促進剤を用いてシランの無菌発芽試験をしたところ、発芽率が有意に上昇した。ジベレリンの生合成阻害剤は他の野生ランの発芽にも有効だったという。

 これらの成果は、これまで人工的に発芽させるのが難しいとされてきたランを発芽させ、栽培する技術に繋がることが期待されるとしている。