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連続生産フロープロセスの要となる「抽出分離」を開発―生産効率の大幅な向上と廃棄物削減を実証:産業技術総合研究所

(2023年10月30日発表)

 (国)産業技術総合研究所は機能性化学品を連続的に合成・抽出・分離するフロープロセスの実現の鍵となる多段連続抽出分離システムを開発したと発表した。このシステムをフロー反応システムと連結して使用し、機能性化学品の生産効率の大幅な向上と廃棄物の削減に成功したという。

 医薬品や農薬、香料、電子材料のような高付加価値な化学品は機能性化学品と呼ばれている。機能性化学品の多くは段階的な生産方式であるバッチ法を用いて、多段階で複雑なプロセスを経て生産されている。

 しかし、バッチ法は単位時間、単位体積当たりの生産量が低く、生産時に溶媒や未反応物などに由来する廃棄物が大量に生じる。このため近年はフロー法と呼ばれる生産方式が注目され、複雑な化学構造を持つ機能性化学品を連続的に処理できる連続生産フロープロセスの研究開発が国内外で活発に進められている。

 連続生産フロープロセスは、フロー反応システムと抽出分離システムから成り、産総研は2015年からこの技術開発プロジェクトに着手、これまでに連続化したフロー反応システムを構築し、機能性化学品原料の連続合成を実証した。

 今回は、反応後に生成物を精製するために用いられる重要なプロセスである「抽出分離」に取り組み、フロープロセスにおける高速での連続処理に対応できる連続抽出分離システムを開発した。

 具体的には、スラグ流を用いた高速抽出分離システムを効率的に多段化し、最小限の溶媒量を用いて約3分以内に連続抽出分離を可能にした。また、それに先立ち、反応溶液と溶媒を混合するミキサー、目的成分を抽出する抽出管、抽出後の抽出液と残液を分離するセパレーターから成る連像抽出分離システムを作成した。

 これらの開発により、従来技術と比べて約3分の1という少ない溶媒消費量でも高い回収率で抽出分離が可能になった。この連続抽出分離システムを用いて、合成香料バニリンの連続生産フロープロセスを毎時数グラムの規模で運転したところ、バッチ法と比べて約17倍の生産性向上と約50%の廃棄物削減効果を実証できたという。

 今後この技術を実用化すれば、機能性化学品の生産性や環境負荷が大幅に改善され、持続可能なものづくりに貢献するとしている。