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従業員の労働パフォーマンス低下は抑うつ症状と不定愁訴が強い―健康支援策には、ストレスチェックを活用しメンタルヘルスの改善を:筑波大学

(2023年11月2日発表)

 筑波大学体育系の武田 文(たけだ ふみ)教授の研究グループは11月2日、1万人以上の従業員の健康問題と仕事の環境、生産性に関わる労働パフォーマンスの調査結果を発表した。男女ともに抑うつ症状が最も強く、食欲がない、よく眠れないなどの不定愁訴が関係していることが分かった。法律で義務付けられているストレスチェックを活用して、従業員の健康支援を向上させることが効果的としている。

 労働パフォーマンスとは、会社の資本ともいえる従業員が安全で健康的に仕事ができることによって仕事の生産性をあげ、ひいては企業としての業績に寄与することを目指す健康経営の考え方をいう。

 法律では従業員50人以上の企業、事業所に対して毎年1回全ての従業員にストレスチェックの実施が義務付けられている。自分のストレスがどんな状態かを知り、メンタルヘルスの不調を未然に防止するための仕組み。

 しかし実際にどんな健康問題が従業員の労働パフォーマンスに関係しているか、男女によってどう異なるかなどは明らかではなかった。

 研究グループは、企業の従業員1万2,526人に対して健康調査(肥満、高血圧、コレステロール、中性脂肪など)とストレスチェック(抑うつ症状と11項目の不定愁訴)、診療報酬明細書(糖尿病、精神疾患、感染症など)、労働パフォーマンスのデータから、26項目の健康問題と労働パフォーマンスとの関係の強さを調べた。

 その結果、男性では14の健康問題があり、強い順に抑うつ症状、食欲減退、よく眠れない、動悸や息切れ、胃腸の具合が悪い、頭痛、めまい、便秘や下痢、ふしぶしの痛み、精神疾患での受診、腰痛、目の疲れ、首筋や肩のこりが労働パフォーマンスと関係していた。女性も、男性と共通する9つの健康問題がほぼ同じような順で関係していた。

 一方、歯科を受診している男性は、虫歯や歯周病の予防が目的で、労働パフォーマンスが高いことが分かった。

 この調査から従業員の労働パフォーマンス低下には、抑うつ症状が最も強く関係し、ついで食欲がない、よく眠れない、動悸や息切れといった不定愁訴が関係していた。女性より男性の方が精神疾患の受診や他の不定愁訴が強く関係し、労働パフォーマンスに与える影響が大きかった。

 対策としてストレスチェックを活用し、メンタルヘルスや不定愁訴、睡眠の改善に取り組むことが効果的だとしている。