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新型コロナ回復後の倦怠感―脳の特定部位炎症が関与:理化学研究所

(2023年11月24日発表)

 (国)理化学研究所は11月24日、新型コロナなどのウイルス感染症で回復後に長期にわたってみられる倦怠感(けんたいかん)や意欲の減退に脳の特定部位の炎症が関与していると発表した。ラットを用いた実験で、倦怠感の指標となる自発行動の低下が、脳内の特定部位の炎症の強さと関係していることを突き止めた。感染症によって起きる慢性的な倦怠感の緩和・治療法の確立に役立つと期待している。

 ウイルスなどの病原体が感染すると急性期の発熱や痛みなどの全身症状だけでなく、長期にわたる倦怠感や意欲の低下などが起きることがよく知られている。理研は今回、その原因を解明するために、ウイルス感染によく似た全身症状を起こす薬剤「合成2本鎖RNA」をラットの腹腔内に投与、ウイルス感染を再現した。

 そのうえで、倦怠感の指標となる飼育器内でのラットの自発的な行動量の変化を赤外線センサーで計測、急性期の発熱が収まった後も含めてラットの行動量を定量的に評価した。さらに、ラットに投与した薬剤分子の体内分布を見られる陽電子放射断層撮影法(PET)を用いて生体の脳内炎症を高感度で画像化、行動量の変化と脳内炎症の関係を詳しく分析した。

 その結果、うつ病の治療薬としても知られる神経伝達物質「セロトニン」を脳内で分泌する神経細胞が集まる部位「背側縫線核(はいそくほうせんかく)」の炎症が強いほどラットの自発行動が低下しており、倦怠感が大きくなっていることが推定できた。セロトニンは本能行動や情動、認知機能に深く関係しているため、ウイルス感染によってそれを受ける神経系に異常が生じ、長期にわたる倦怠感を引き起こしている可能性が強いことが分った。

 今回の成果について、理研は「神経生理学、行動病理学、遺伝子工学的な手法を組み合わせることで、倦怠感の詳細な分子神経基盤の解明が期待される」とみており、ウイルス感染症による倦怠感の緩和・治療法の確立につながると期待している。