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温暖化で都心オフィス街の電力消費量は大幅に増加―ゼロ・エネルギー・ビルの普及で電力需要増半分に:産業技術総合研究所ほか

(2023年11月29日発表)

 (国)産業技術総合研究所と明星大学、東京電力ホールディングス(株)の共同研究グループは11月29日、詳細な電力消費ビッグデータを用いて首都圏の電力消費量の実態を明らかにするとともに、気候変動に伴う電力消費量の将来変化を推計したと発表した。今後の地球温暖化により、特に都心部のオフィス街区の電力消費量が大幅に増加する可能性が示されたという。

 研究グループは、都市部における人間活動と都市の気象・気候の関係を計算してその効果を定量的に見積もることを目指し、都市の気候を計算する数値モデル「都市気候モデル」の開発に取り組んできた。今回、首都圏の電力消費ビッグデータを用い、これまで培ってきたビッグデータ解析技術、気候の将来予測技術、それと都市気候モデル技術を組み合わせた研究を推進した。

 都市気候モデルは、都市気候・気象をコンピュータ上で再現・予測する数値モデルで、従来の数値モデルでは郊外と異なる都市気候特有の特徴をうまく再現できなかったが、新モデルはそれを可能にした。また、建物エネルギーモデルとの結合により、人間活動とエネルギー消費、気温との相互作用も計算できる。

 研究では、気温の変化が消費電力に与える影響の度合いを示す気温感応度を求め、首都圏全体の気温が現在よりも1℃、2℃、3℃ずつ上がったと想定した際に、電力消費量がどのくらい変化するかを推定した。

 その結果、冷房使用に伴う電力消費量は増え、暖房使用に伴う電力消費量は減り、通年のトータルの電力消費量は、都心部を含む首都圏の多くの場所で大幅に増加すると推定された。一方で、一部の山間部ではトータルの電力消費量は減少すると推定された。

 次に、脱炭素化技術の発展・普及に伴い、ゼロ・エネルギー・ビル(ZEB)とゼロ・エネルギー・ハウス(ZEH)が首都圏のすべての建物で普及したと仮定した場合に、電力需要の増加がどの程度まで抑えられるかを、都市気候モデルを応用して推定した。

 それによると、ZEH・ZEBの普及により、将来の温暖化に伴う電力消費量の増加を半分程度に抑えられる可能性が示唆された。研究グループは今回の成果を、地域に有効な脱炭素化提案につなげたいとしている。