[編集発行] (公財)つくば科学万博記念財団 [協力] 科学技術振興機構(JST)・文科省研究交流センター

つくばサイエンスニュース

トピックスつくばサイエンスニュース

小惑星リュウグウの岩石試料が黒いわけを解明―隕石は地球大気に触れて反射スペクトル明るく変化:東北大学/産業技術総合研究所ほか

(2023年12月7日発表)

 東北大学と(国)産業技術総合研究所、東京大学の共同研究グループは12月7日、小惑星探査機「はやぶさ2」が小惑星リュウグウから回収した岩石試料が、始原的な隕石よりも黒いわけを突き止めたと発表した。隕石は地球大気に触れて反射スペクトルが明るく変わったのに対し、リュウグウの試料は大気に触れることなく扱われ、反射スペクトルが変わらなかったことによるという。

 今後、隕石の地球上での変質による反射スペクトルの変化を考慮することで、観測によって小惑星の構成物質を特定する精度の向上が期待されるとしている。

 太陽系に百万天体以上見つかっている小惑星は、太陽系がどのように形成されたかを知る上で重要な情報源。小惑星を構成する鉱物や有機物には太陽系形成の最初期の情報などが含まれているとされており、構成物質の特定を目指して望遠鏡や人工衛星を用いた反射スペクトル観測が各国で行われている。

 リュウグウ試料の主成分は、構造中に水酸基を含む含水鉱物で、隕石の構成鉱物に基づく分類によるCIタイプの隕石とよく似ているとされる。ところが、両者の反射スペクトルを比較すると、リュウグウ試料はCIタイプ隕石よりずっと黒く、人の目に見える波長域の反射率にして2倍の差がある。なぜリュウグウの反射スペクトルはCIタイプ隕石よりも圧倒的に黒いのか?

 研究グループは今回この理由の解明を目指し、1864年にフランスに落下したCIタイプの代表的な隕石であるオルゲイユ隕石を用いて反射スペクトル観測実験をした。実験では、リュウグウ試料を宇宙空間での姿に限りなく近い状態に保ったり、CIタイプ隕石を様々な温度・時間で加熱するなどして反射スペクトルを測定し、それらの結果を比較した。

 その結果、隕石が地球大気の水や酸素と反応したことでその反射スペクトルが宇宙にあった状態よりも明るく変化したことが示された。

 これまでCIタイプ隕石の母天体となる小惑星は、分光測定した場合にCIタイプ隕石のような比較的明るい反射スペクトルを示すと考えられていた。しかし、その根拠となっていたCIタイプ隕石の反射スペクトルは地球大気との反応によって明るく変化したあとのものであることが示され、CIタイプ隕石の母天体はむしろリュウグウのようにより暗い(黒い)反射スペクトルを示すことが示唆されたという。