“ゲノム編集の落とし穴”見つける―想定外のタンパク質ができる現象を発見:理化学研究所
(2016年12月26日発表)
(国)理化学研究所は12月26日、ゲノム(全遺伝情報)の配列を変えるゲノム編集で想定外のタンパク質が生合成(翻訳)される現象を発見したと発表した。
この定型規格から外れた定型外翻訳は、マウスの遺伝子で見つけたものだが、さまざまな生物の多くの遺伝子で起こりうる“ゲノム編集の落とし穴”だといい、ゲノム編集を行う場合には標的とする遺伝子の変異配列確認だけでなく、タンパク質の発現まで確認することが重要であることを示していると理研は警鐘を鳴らしている。
ゲノム編集は、核酸分解酵素のヌクレアーゼを利用して生き物の設計図である遺伝子情報を変えることで生物の特性などを変える今世界中が競って取り組んでいる最先端の研究分野。これまでゲノム改変が困難だった生物にも利用できることから、遺伝子機能を解明する基礎研究から医療分野まで広い範囲にわたって研究が進められ、将来はゲノムを自在に改変して遺伝子治療への扉を開くものと期待されている。
生物の遺伝情報の伝達は、細菌から人間まで全てにおいてDNA(デオキシリボ核酸)にある遺伝情報がmRNA(メッセンジャーRNA)に転写され、それがタンパク質に翻訳される「セントラルドグマ」と呼ばれる分子生物学の基本原則に従って行われている。今回の発見は、その基本原則であるセントラルドグマの重要なステップである翻訳開始に新しい分子機構があることを示していると理研は見ており、「セントラルドグマが書き直される可能性も」といっている。
研究チームは、DNAの2本鎖を切断してゲノム配列の任意の場所を削除したり、置換したり、挿入することができる第3世代のゲノム編集ツール「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)システム」と呼ばれる最新の遺伝子改変技術を使いマウス細胞について実験を行った。その結果、標的とするゲノム領域に狙い通りの突然変異を導入しても想定外のタンパク質ができる定型外翻訳が発見されたという。
研究チームは、さらに研究を進めて翻訳の開始機構を明らかにしたいとしている。理研は「翻訳開始機構の解明はヒト疾患の詳細な分子機構を理解することにつながる」といっている。