物理学の基礎定理によると起こりえないはずの現象を発見―定理に矛盾せずに現象の説明が可能な物理モデルを提案:筑波大学ほか
(2023年12月14日発表)
筑波大学と(国)物質・材料研究機構、東北大学の共同研究グループは12月14日、物質科学の基礎定理の一つ、オンサーガーの相反定理によると起こりえないはずの現象を発見したと発表した。ただ、特殊な磁気配列を仮定することにより、相反定理と矛盾せずにこの現象を説明できる物理モデルを創り出せたという。
磁場中にある導体に電流を流すと電流と磁場に対して垂直方向に電圧が生じる現象をホール効果という。オンサーガーの相反定理によると、磁場や磁化に垂直な面内であれば、どの方向に電流を流しても電子が曲がる方向は変わらないということが導かれる。この一般的なホール効果ではフレミングの左手の法則が常に成り立つ。
今回新たに発見したのは、電流を流す方向によって電流の曲がる方向が変わる新しいホール効果。
研究グループは、低温で円錐(えんすい)型の磁気異方性を有するスピネル酸化物NiCo2O4という化合物の薄膜において、電流方向に依存した異方的な異常ホール効果を観測した。つまり、電流方向により、フレミングの左手の法則が右手の法則に変化する現象を発見した。
相反定理によればこれは起こりえないはずだが、研究グループはこの現象を説明するために、実験的に観察された異方的な異常ホール効果の対称性を、現象論的な観点から考察した。
その結果、クラスター磁気トロイダル四極子と呼ばれる磁気構造が関与していることが示唆された。このことから、円錐型の磁気異方性により磁気トロイダル四極子構造と強磁性が共存したときには、オンサーガーの相反定理と矛盾せずに異方的な異常ホール効果を説明できる物理モデルが浮上したという。