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分泌型粘膜抗体がウイルス排出を抑える働き明らかに―呼吸器ウイルスのヒト間伝搬を制御・予防へ:東海国立大学機構 名古屋大学/九州大学/京都大学/理化学研究所ほか

(2023年12月18日発表)

 東海国立大学機構 名古屋大学大学院理学研究科の岩見教授らは、国立感染症研究所などと共同で12月18日、新型コロナウイルスCOVID-19に関する分泌型粘膜抗体のS-IgA抗体が、感染症ウイルス排出を抑制する可能性を世界で初めてヒトで明らかにしたと発表した。呼吸器ウイルスの感染予防におけるS-IgA抗体の臨床的意義を立証したもので、将来のパンデミックを制御する新たな技術の開発につながる成果という。

 IgAは免疫グロブリンAの略称で、抗体の一種。目・鼻・喉や消化管など外界と接する粘膜組織において、粘膜表面に分泌されるIgAのことを特に分泌型IgA(S-IgA)抗体と呼んでいる。

 新型コロナウイルスは呼吸上皮に感染し、飛沫感染や空気感染を起こすため、「呼吸粘膜上に分布するS-IgA抗体がウイルス感染を防ぐ上で重要な役割を果たす」(仮説)と考えられてきた。

 呼吸器ウイルスのヒト間伝搬を予防できる薬剤が開発されればパンデミックを早い段階で制御することが期待されることから、研究グループはこの仮説の検証に取り組んだ。

 臨床疫学調査や患者の各種データなどを統合的に解析した結果、S-IgA抗体はIgG抗体やIgA抗体と比較して、鼻粘膜のウイルス量や感染力を強く抑制する傾向を示すことを発見した。また、上気道での感染性ウイルス排出期間と粘膜抗体応答との関係を追跡した結果、S-IgA抗体が誘導されるまでの時間と感染性ウイルス排出期間に正の相関があることが分かった。

 つまりS-IgA抗体誘導が早い症例ほどウイルス排出期間が短くなり、S-IgA抗体が患者の感染性ウイルス排出を防ぐ可能性が示唆された。さらに、過去のコロナウイルス感染歴やワクチン接種歴がある患者ほどS-IgA抗体の誘導期間が短くなることも明らかになった。

 これらの成果をもとに今後、粘膜免疫を標的とした次世代ワクチンの開発などが進めば、パンデミック制御に新たな戦略を与えることが期待されるという。