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奇妙な原生生物・メテオラの「微細構造」と進化の「系統」を解明―真核生物の古代系統に由来する生物群と近縁:筑波大学

(2024年1月23日発表)

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Meteora sporadicaの顕微鏡写真 ©筑波大学

 筑波大学生命環境系の白鳥 峻志(しらとり たかし)助教の研究チームは1月23日、これまでの原生生物には見られない奇妙な姿と動きが特徴の「メテオラ」の詳細な解析に成功し、真核生物の最も古い時代に分岐した「ヘミマスチゴフォラ」と近縁であることを解明したと発表した。外見は異なるが実態上はよく似ており、進化を解明することで生物の多様性の理解にも役立つとみている。

 原生生物とは菌類でも植物でも動物でもない生物の総称で、ゾウリムシやアメーバなどが知られている。ほとんどが小さな微生物のため、細胞内部の微細構造や系統的な位置づけが未解明なところが多い。

 地球上に最初の生命が誕生したのは約四十億年前で、これが生物の共通祖先といわれる。やがて人類を含む大きな生物グループの真核生物が生まれた。しかし誕生の経緯や初期の進化については謎に包まれたままだ。この進化の謎を解く鍵を握るのが原生生物である。

 原生生物のメテオラは複雑な細胞骨格を持ち、前後左右4本の突起のうち左右2本を腕のように前後に振りながら奇妙な姿で底面を滑るように動いている。形や動きが既知の真核生物とは違うため、メテオラは分類学では所属が不明な原生生物として扱われてきた。

 研究チームは、沖縄県宮古島とキューバの沿岸で採取した堆積物からメテオラの培養株を抽出した。これを透過型電子顕微鏡で詳細に観察したところ、前後左右の突起は細胞の中心から伸びる複数の微小管で支えられていた。突起の中から飛び出す顆粒を使ってバクテリアを捕食していると考えられる。

 また254遺伝子のアミノ酸配列を使って大規模分子系統解析をしたところ、これまで知られている真核生物の主要な進化系統には属さず、最も古い時代に分岐した生物群「ヘミマスチゴフォラ」と近いことが初めて明らかになった。

 ところがヘミマスチゴフォラは比較的大型で多数の鞭毛を持つ原生動物で構成される一方、メテオラは小型で鞭毛を持たず、細胞中心から伸びる微小管によって支えられているように大きな違いがある。

 系統的に極めて近い性質と、形態や微細構造で大きく異なる点があることから、新たな「ヘミマスチゴフォラ・メテオラ系統群」が存在すると考えられ、潜在的に多様な原生生物を含んでいる可能性がありそうだとみている。

 今後、この系統群に入る新たな原生生物が見つかれば、メテオラとヘミマスチゴフォラがそれぞれどのような進化を歩んできたかを明らかにできるとしている。

 

Meteora sporadicaの顕微鏡写  A-Cは光学顕微鏡写真。左右の突起が前後に運動している様子を示している。Dは電子顕微鏡写真。微小管(矢頭)が複数の微小管形成中心(二重矢頭)から出現し、突起へと伸びている様子を示している。 ©筑波大学