海洋の酸性化と貧酸素化が魚の卵に及ぼす影響明らかに―海水魚シロギスの卵使い遺伝子レベルで解明:産業技術総合研究所ほか
(2024年2月1日発表)
(国)産業技術総合研究所は2月1日、(公財)海洋生物環境研究所、摂南大学と共同で温暖化の原因とされるCO₂(二酸化炭素)の排出増加に伴って世界的に進行している海洋の「酸性化」、「貧酸素化」が海水魚の一種シロギスの卵に及ぼす影響を遺伝子レベルで明らかにしたと発表した。
海洋環境の酸性化、貧酸素化は、水温上昇と併せ「死のトリオ(Deadly Trio)」とも「3大ストレス」とも呼ばれ、その影響が世界的問題になっている。
温暖化によって増える排熱エネルギーは、多くが海に吸収されるため海水温の上昇を引き起こす。世界気象機関(WMO)は、世界の海面水温が2023年5月に過去最高を記録したと発表している。日本近海でも海面水温が100年間に1.2℃上昇していると気象庁が発表している。
一方、CO₂の排出が増えると海洋のCO₂吸収量が多くなり、元来アルカリ性の海水のPH(ペーハー、酸アルカリ度)が低下し酸性に近づいてしまう「酸性化」現象が生じる。世界の科学者が集まる国連のIPCC(気候変動政府間パネル)は、このままCO₂を排出し続けると、海洋表面の平均PHは21世紀末までに最大0.3低下してしまうと警鐘を鳴らしており、海洋生物の生息域が変わってしまう心配がある。
更に加えて、「貧酸素化」進行の恐れも高まっている。酸素の溶解度は、水温でほぼ決まり、地球温暖化で海水温が上昇すると海水中の溶存酸素が減ってしまう貧酸素化が起こり、すでに世界の広い範囲でそれが生じている。
こうしたことから、研究グループは、進行している海洋の酸性化と貧酸素化が水産資源に及ぼす影響を遺伝子レベルで明らかにしようと今回の研究に取り組んだ。
研究は、共同研究メンバーの海生研が飼育している天ぷらなどによく使われている魚種のシロギスの卵を採取して①自然海水を模した海水、②東京湾などで十分起こり得る酸性化海水、③酸性化・貧酸素複合海水、④貧酸素化の海水、を作成サンプルにして実施した。
酸性化と貧酸素化がシロギスの卵に及ぼす影響の解析は、卵の細胞内に存在する全てのRNA(リボ核酸)の配列を次世代シーケンサー(大量の塩基配列解読装置)で決定して発現性を定量化する方法で行った。
その結果、酸性化と貧酸素化がシロギスの卵に及ぼす遺伝子レベルでの影響は、貧酸素化のほうが顕著であることが分かった。
貧酸素下では、グルコース(ブドウ糖)を分解してATP(アデノシン3リン酸)という形でエネルギーを生み出す遺伝子の働きが活発になり環境の変化に対応していることが分かった。
今後は、他の海洋生物を対象とした類似の実験を実施し、今回のような結果が得られるか明らかにしていきたいとしている。