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エタノールがトマトの高温耐性を高めることを発見―環境ストレスに強い農作物の開発に貢献へ:理化学研究所ほか

(2024年2月16日発表)

 (国)理化学研究所と筑波大学の共同研究グループは2月16日、エタノールがトマトの高温耐性を高めることを発見したと発表した。実験用モデル品種で得られた今回の成果は、栽培品種への適用や環境ストレス耐性植物の開発などへの応用が期待されるという。

 地球温暖化などによる気温の上昇は植物にとってストレス要因であり、作物はダメージを受けて収量が低下する。懸念される今後の深刻な食糧不足に対処するため、温暖化などに強い環境ストレス耐性植物の開発が重要な課題になっている。

 理研の研究者らはこれまでに、お酒などのアルコール成分であるエタノールを植物に投与すると、塩分や気温、乾燥などの環境ストレスへの耐性が高まることを明らかにしてきた。今回はトマトを対象に調べ、同様な成果を得た。

 実験は、実験用モデル品種トマトの幼植物体を用いて行った。20mM(ミリモーラー、1m3当たり20mol)のエタノール水溶液が入ったトレーに3日間浸してエタノールをトマトに投与した後、高温ストレス下に置いて生育を見た。

 その結果、50℃の環境下に4時間置いた場合の観察では、生存率の向上、すなわち高温ストレス耐性の向上が認められた。50℃の環境下に2.5時間置いた場合では、果実の生育において高温ストレスによるダメージの低減が認められた。

 遺伝子発現や代謝産物の量的変化を網羅的に解析したところ、エタノールの投与によって、ストレス応答性遺伝子LEAの発現量の増加、糖類の蓄積、活性酸素種の除去に関わる遺伝子発現量の増加が認められた。

 これらの作用機序により、高温ストレス耐性が向上する可能性が示唆されたという。今回の成果は、トマトの栽培品種をはじめとする作物の生産現場への応用や、高糖度トマトの栽培技術への応用が期待されるとしている。