減少が危惧されるサンゴへの環境影響調べる新手法を開発―僅か3分程度の短時間で解析が可能に:産業技術総合研究所ほか
(2024年3月5日発表)
(国)産業技術総合研究所は3月5日、近畿大学、北里大学、(株)コーセーと共同で地球規模の環境変化がサンゴに及ぼす影響をごくわずかなサンプルで迅速に調べることができる手法を開発したと発表した。前処理操作が一切いらず、これまで1日から2日程度を要していた環境影響の解析を僅か3分程度に短縮できるという。産総研は、サンゴへの環境影響を調べる新たな評価手法を確立したとしており、他の研究機関とも協力してこの手法をサンゴ以外の海洋生物にも適用していきたいといっている。
サンゴは、イソギンチャクや、クラゲの仲間で、「刺胞(しほう)」と呼ばれる毒針を持ち、硬い石灰質の”甲羅”で覆われた微小な動物の一種。褐虫藻(かっちゅうそう)という植物プランクトンが共生していて、それが光合成で得たエネルギーをもらって生活し、海水中のカルシウム分を取り込んで硬い骨格を作り、大きさ僅か2mm程度の小さな個体一つ一つは「サンゴポリプ」と呼ばれている。
サンゴ礁は、その小さなサンゴポリプの遺骸が何世代にもわたって繰り返し海底に降り積もってできたといわれている。
しかし、化学物質や微細なマイクロプラスチックの流出増加などにより地球規模で海洋環境の変化が進んでおり、そうした変化でサンゴ礁の世界的な減少が危惧されている。
産総研は、海洋生物の環境変化に対する応答を明らかにし、信頼性の高い環境影響評価手法を構築することを目指しており、これまでにサンゴについて飼育実験・遺伝子解析・化学分析を組み合わせた多角的な研究を行ってきた。そして、サンゴポリプの育成やサンゴの代表的グループのミドリイシ属サンゴの一斉産卵を捉えるなどの成果を得ている。
しかし、サンゴポリプの直径はわずか2mm程度と非常に小さく、従来からの解析手法では大量のサンゴポリプを育成する必要があることに加え、得られる解析結果が平均化されてしまう問題があった。
今回の共同研究は、その課題を解決することに微細な試料の分析が可能な「代謝解析プラットフォーム(PiTMaP)」と呼ばれる解析を用いることで、大きさが数ミリたらずの小さなサンゴポリプの代謝物を迅速かつ簡便に解析できるようにした。
従来の解析手法では必要だった煩雑な前処理操作が一切いらず「今回の手法を用いると僅か3分程度で一つのサンゴポリプを解析することが可能になった」と産総研は話している。