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13万年前の大規模な阿蘇火砕流の堆積物分布図を公開―隠れた巨大噴火の全体像にせまる:産業技術総合研究所

(2024年3月18日発表)

 (国)産業技術総合研究所の大規模噴火研究グループは3月18日、約9万年前の阿蘇4火砕流によって隠された約13万年前の阿蘇3火砕流の大規模堆積物に関する詳細な分布図を作成・公開したと発表した。隠れた巨大噴火の全体像に迫る成果で、地域の防災対策や国土利用計画への活用が期待されるという。

 阿蘇火山は約27万年前から約9万年前までの間に、巨大噴火を4回起こし、その都度大量の火砕流や火山灰を噴出した。これらの噴火は古い年代から順に、阿蘇1(約27万年前)、阿蘇2(約14万年前)、阿蘇3(約13万年前)、阿蘇4(約9万年前)と呼ばれている。

 巨大噴火は全世界でも数千年に1度程度しか起きていない大噴火で、広大な地域を火砕流により壊滅させ、国土全域に火山灰災害をもたらしたりすることから、その影響を把握しておくことが求められている。

 しかし、これまでの噴出物は浸食などにより失われたり、新しい時代の地層に覆われたりしているため、既存の地質図などでは、噴出物が噴出した時点の分布の把握は難しい。そこで産総研は、火砕流や降下火山灰が到達した範囲を示すだけではなく、地質学的な知見をまとめた解説も加えた「大規模火砕流分布図」の作成に取り組んでおり、今回、「阿蘇3火砕流堆積物分布図」を作成した。

 新分布図では、地質調査で判明した地表における火砕流堆積物の分布に加え、地下に火砕流堆積物が埋没している、あるいは過去に存在していた可能性のある範囲についてもボーリング資料などから推測、図示することで、実際に阿蘇3火砕流が覆った可能性がある地域を可視化した。

 また、火砕流から舞い上がった阿蘇3火山灰の主な確認地点も図示した。阿蘇3噴火により、阿蘇カルデラから800km以上離れた関東地方や、さらに太平洋の海底でも厚さ数cmを超える火山灰が堆積していることが分かる。

 将来、同じような噴火が発生した場合に,どの程度の範囲にどのような影響が及ぶかを推定する手がかりにもなるという。軟弱な火砕流堆積物は斜面災害の要因ともなるため、その分布情報は土砂災害リスクの評価にも有用としている。